第183話 城壁の上から

 火薬樽を仕込んだ第一防衛戦に向けて、火魔法を放つため城からの合図を待っていた。


 ――――城壁の上では。

 眼下で蜜に群がるありのような魔物の集団を、冒険者たちが見事に仕留めた頃。

 神聖軍のエリック少将とアルツール男爵が戦況を見守っていた。

 


  ――――第三者目線です――――


「なかなか優秀な冒険者たちを飼っておられるようですな?」


 エリック少将の褒め言葉も、防衛戦に駆り出した委託先の冒険者組合ギルドへの賛辞だったから、アルツール男爵にとっては皮肉にしか聞えない。


 それでも続々と押し寄せる後続の魔物たちを見ると自軍で止める事ができるのか? と聞かれれば無理な話なので、無言のままでいる。

 そこへ領軍の下士官が駆け込んで来た。

 

「ほ、報告しますっ。ミノタウルスが現れて第一防衛線は窮地。やむなく撤退しました」


 無念残念と言わんばかりの小芝居を見て、アルツール男爵の額には血管が浮かび上がるが、先に口を開いたのはエリック少将だった。


「そうかい? そりゃ、わざわざご苦労様」

 

 人の悪い口利きにアルツール男爵の渋面じゅうめんはさらに厳しくなっていく。


 エリックの皮肉な笑いはさらに濃くなり

「自軍が……あ、冒険者たちだったね。彼らがどうなったのかも見届けたのかい?」

 と、揶揄からかいい半分で聞く口調に戸惑いながら下士官は首を振った。


「いや、あの状況ではもはや助かるまいと、全軍の崩壊へ繋がる前に――――」


「――1人だけ逃げて来たんだな」

 とアルツール男爵の鉄拳が火を吹いた。


「あががっ!」


「馬鹿者がっ! 冒険者やつらは罠まで誘導して見事に食い止めたわいっ。士官が無様を晒しおって」


 さらに追撃の拳を振り上げたが、神聖軍お客の前での癇癪かんしゃくなど恥の上塗りでしかない。


「もういい! 下がれっ」


 憤怒を押し殺して下がらせる。

 ニヤつくエリック少将に軽く目礼をして部下の無様を詫びると、空気を変えるために気がかりな事を聞き出すことにした。


「少将の策、誠に見事にございました。で、このあとの策などございましょうか?」


 ちょっと揶揄からかいすぎたか、と思い直したのかエリック少将も真面目な顔になり遠くを見つめる。


「ここからは総力戦だよ。魔物は魔物を喰らってさらに強力になる。喰われた魔物は魔素を吐き出して、また魔物を呼ぶ――」


 どこまで火力が持つか……と言いかけて眼下に動き回る全身鎧フルプレートが目に止まった。


「やりようは無くはないがね」

 と口角を上げた。

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