第181話 こちらスタンピードの現場です3

 火薬が破裂する音に満たされる中、聞き覚えのある咆哮を風が運んできた。


「ブモォォォ――ッ」


 ――――ミノタウルスだ。


 第10層で危険地帯ホットスポットで出会った身長タッパが二メートル四、五十はある、あのデカい牛人だ。


「ひゃあ!」

 と塹壕の上に陣取っていた領軍の下士官が滑り落ちて来た。


「き、貴様ら、あのようなバケモンに慣れているだろ? ここは貴様らに任す。ここを死守しておけ、俺は上に報告してくるっ」

 そう言い残すと通路用の塹壕ざんごうに駆け込んで行った。


「は?! 敵前逃亡は死罪だったんじゃねぇのか」


 あちこちで罵声を浴びながらもその下士官は

「うるさいっ、報告に行くのだ。貴様らはここを死守しておけ」

 と嘘くさい応酬をしている。


「放っておけ、居たところでどうせ足手纏いだ」

 遠くでマーベルの声が聞こえて、ギャハハと嘲笑の声が上がる。

 

 まだ居たの? ありゃまぁ、組合長ギルドマスターなのに前線に張り付いていやがる。

 だが不思議とその声は、ミノタウルスの咆哮に浮き足だった冒険者たちを落ち着かせた。


 絶え間なく矢を射掛ける冒険者たちの後ろを、マーベルが下士官と入れ替わりに入って来る。

 

「脅威度20(のミノタウルス)まで来やがったか……」

 と塹壕ざんごうから顔を出して、炸裂弾が弾け回り煙に塗れた前線を見る。

 

 俺はというとあの時は必死に逃げ回った記憶しか無いから、Aランカーたちの対処を見つつ進退を決める事にした。


「よぅ、輜重隊しちょうたいの……ショーカンだったな」


「ああ、そうだが」


「あと炸裂弾はどれくらい持って来ている?」


 ん……? と『在庫システム』を開いて炸裂弾の項目までスクロールする。


「3,000ってとこかな?」


「なら、全部矢筒に補給して回れ。これから奴らの目鼻を塞ぐ」


「?……了解」


 遠くから肝が冷え上がるような咆哮が響き渡る中、嫌も応もない。

 塹壕ざんごうを走り回って矢筒にざっくり100本ずつ追加してまわり

「これで最後だ」と残り一本を振り回す。


「テメェら用意は良いか?! 奴らを目潰しするぞ! しっかり狙ぇ」

 マーベルの雷声らいせいが響き渡った。


「「「「おうっ」」」」

 

 その狙いを言わずとも伝わっているのは高ランカーの以心伝心ってやつらしい。

 

 塹壕ざんごうの縁に片足をかけて、キリキリと弓を引き絞る音があたりを満たす。


「撃てっ」


 何百の矢が一斉に放たれる擦過音。

 俺も塹壕ざんごうの縁から顔を出して、祈るような気持ちで見入っている。


 パパパパ――ンッと乾いた音と、破裂した炸裂弾の煙に目の前が真っ白になった。

 

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