第180話 こちらスタンピードの現場です2

 城壁から火玉ファイヤーボールが次々と放たれ、彼方からは魔物の咆哮が響き渡る。迷宮暴走スタンピードはまさに戦争だった。


 ―――――城壁から銅鑼の音が響く。


『矢を放て』――の合図だ。それだけ魔物が近づいて来ているって事でもある。


「弓構え――っ」

 領軍の下士官が声を張り上げる。

 

銅鑼どらの合図があったろうがよ。偉そうに」

 

 苛立つのは盾にされた挙句、冒険者の嫌う兵士の真似事をさせられているからだ。


 キリキリと引き絞られている弓はロングボウと言われるそれで、長さだけでも180センチはある。

 つがえられている矢の先端には、衝撃が加わると破裂する炸裂弾が装着されていて、言わばアナログのミサイルだ。

 

 平時なら冒険者は獲物の破損を嫌いこんな物は使用しないが、今回は領軍が兵器庫を解放した。

 その膨大な兵器を運搬するために俺が駆り出されたわけなんだけど――――迷宮暴走スタンピードを止められなければ、この迷宮都市タレントゥムス自体がなくなるのだから仕方ない。


 いかにもな領軍の下士官が塹壕ざんごうの縁に立ち、手にした軍刀を引き抜くと「放てっ」と振り下ろした。


 いわゆる曲射撃ちで、矢は弧を描いて飛んでいく。その行方を見定める間もなく次の声がかかる。


「弓構え――」


 それを合図にあちこちからキリキリと弓を引き絞る音が上がり、「放てっ」の号令に合わせて矢は飄々と空気を割いて、昼に差し掛かる抜けるような青空へ吸い込まれていく。


 しばらく間を置きドォンッ、パンパンッと火薬が破裂する音が広がり、弓を構える冒険者たちは各々のペースで次々と放ち始めた。

 ここまでくれば狙いは関係ない。

 

 ともすれば単独の行射ぎょうしゃと思われるかも知れないが、そもそもロングボウの軍的な運用は、突進してくる敵の射程に入る前に矢の雨を降らせて出足を止めるために行う。

 

 まして迷宮暴走スタンピードのような密集体形で襲ってくる敵には、距離さえ合っていれば狙わずとも当たる。


 ドォンッ、パンパンッと火薬が破裂する音に満たされ、爆風が爆ぜる土の匂いを運んできた。


「ほぇ――流石はAランカー揃いだ」


 普通なら1分で5〜6発放てれば良い方だろうが、3秒とかからず次の矢をつがえては放っていく。


 人間相手なら軽く中隊くらいは葬っているんじゃないだろうか?

 だが相手は魔物。人に当たれば爆散するほどの炸裂弾を浴びながら、こちらへ近づいている気配がする。


「ブモォォォ――ッ」


 あれ? 聞き覚えのある咆哮なんですが?

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