第178話 スタンピード緒戦

「レールガンか……いいね」

 将校たちの奥からエリック少佐が現れた。


 ――――そうしている間にも。

 押し寄せる魔物たちは森の入り口にまで近づいて来ている。


 新兵器レールガンを興味深く眺めていたエリック少佐が、魔道士たちを振り返った。


「そろそろ仕掛けを動かした方が良いな」


 森の切れ目から伸びる街道を埋め尽くすように押し寄せる魔物たちの咆哮が、城壁の上にまで届く距離になって来ている。


 白ローブを羽織る神聖軍の魔道士と思しき男が、

「お任せあれ」

 と、さっと手を挙げると既に術式を完成させていた魔道士たちがワンドを振り上げる。


オーム彼の敵を……」


「「オーム彼の敵を」」


「……サバラン・ド滅する火を


「「サバラン・ド滅する火を」」


 口腔を反響させる独特の発声で一同の呪文が空気を震わせ始め、ワンドが光を放つ。


ハン撃て


「「ハン撃て!」」


 振り下ろしたワンドから光が放たれた。

 森から出たあたりにそれが走ると、ドォォォンッと爆炎が巻き起こる。

 オレンジ色の炎が黒い煙を纏って次々と立ち昇る。


「次だ」


 エリック少佐の催促に反応するように、次の詠唱に入っている。


 オーム彼の敵を……」


「「オーム彼の敵を」」


 百を超える魔道士たちの詠唱は風を呼んで、彼らの纏う白いローブをはためかせバサバサと音を立てる。


「「ハン撃て!」」


 再びドォォォンッと爆音が響き、オレンジ色の炎が地を満たす。

 魔道士たちから放たれた光の矢は、爆炎を物ともせず突き進んでくる魔物たちを薙ぎ払い、吹き飛ばされた魔物が木の葉のように落ちていく

 

 おおおおお――カッケぇぇ。


 これぞ魔法の世界だ。ファンタジーな光景に目を奪われゴクリと唾を飲んだ。

 爆炎が晴れると鉄が焦げたような匂いが立ち込め、黒い焦げ跡が広がる。


「やった……のか?」

 魔道士の一人が魔法杖ワンドを下ろすと、その隣の魔道士が両手を広げて魔力を放出している。

 

 予備兵として控えていたミランダが

「『索敵』って魔法よ。ああやって魔力の揺らぎで魔物の位置を確かめているの」

 と教えてくれた。

 

 その隣で同じようにレオが「んー」っと難しい顔をして真似をしているのが微笑ましいけど。

 今回のレールガンの準備のために、パーティーごと同じ輜重隊しちょうたいに回してもらっている。


「ダメだ……火属性の魔物が多数生き残っているし、後ろから物凄い数が押し寄せて来ている」


『索敵』をしていた白ローブの魔道士が厳しい目をして森を睨んでいる。


「気にするな、まだ小手調べだ」


 エリック少佐が手にした双眼鏡を下ろして告げた。

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