第173話 否応なしに巻き込まれていく

 完成した堀を見下ろしていたレオが「これじゃダメ――きっとみんな死んじゃう」泣き出してしまった。


 ――――「妄言もうげんを吐くか貴様っ」と駆け寄ってくる騎士を

「まぁまぁ、年頃の少女ですから不安になっても仕方ないじゃありませんか」

 と、押し留め両手で拝むように右手を包み金貨を一枚握らせると、

 

「これで皆さんに美味しいものでも――」

 上目遣いでにっこり笑ってやると途端に機嫌を直しやがった。

 検査官のってヤツに慣れきっているんだろう。


「なかなか良い心がけだ。次も手心を加えて欲しければその心得を忘れんことだ」


 背中を叩きながら呵呵かかと笑い去っていった。


「あー。あれが神の使徒ね……神様ってどこへ行っちゃったのかね」


 どっと疲れてため息を吐く。

「それにしてもレオ。いったいどうしたんだ? なぜあんなことを言った?」


 しばらく下を俯いていたレオが唇を震わせて、鑑定で未来が見えた、と告げる。


 鑑定した……?

「レオのスキル『鑑定眼真実を見通す目』でか?」


 コクンと頷く。

 ミランダを見るとレオがスキルを得た事は知らされていたが、その『鑑定眼真実を見通す目』を発揮したと聞いて緊張しているのが伝わってくる。

 つまり彼女レオが見た物はに他ならない。


「何が……の?」


 声が強張るのはスキルの力を知る彼女ミランダだからこそだ。


ドラゴンが飛来してくる」


 レオがた未来はドラゴンにはこの堀など全く用をなさず――


「街を焼き尽くしていた」


 そう言う未来だった、と言うことだ。

 しばらく黙り込んでいたミランダは「組合ギルドへ行ってくる」と土埃がついた裾を払って城門へと足を向けた。


 ――――無断で現場を離れるなと騎士にとがめられながら。


 作業終了の証書を振りかざし足早に組合ギルドへ戻ると、何やら騒然としている。


「何があった?」

 近くにいた冒険者に尋ねてみる。たしか洗浄水のデモンストレーションの時、酒場にいたやつだ。


組合長ギルドマスターが怪我したらしい」


「あのおっさんも怪我するんだな?」


「そこは『なぜ?』とか『なんで?』って聞くもんだろ」


「ヤツを怪我させる人間を想像できん」


「まぁ確かにな」


 そんな話をしていると三角巾で腕を吊るし、額を包帯でグルグル巻いたマーベルギルドマスターと、カイゼル髭の騎士が二階から降りてきた。

 

「みんな聞いてくれ、そして伝えて欲しい――」とマーベルが口を開く。


 嫌な予感がする。


「戒厳令が発布された。これより冒険者組合ギルドは神聖軍の配下に組み込まれる」


 やっぱりか……。

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