第172話 堀の底から

 ミランダとレオに冒険者たちが使い潰される危険を伝えたショーカン。3人とも軍への不信感を募らせていく。


 ――――あれから3日経った。


 堀りの掘削も空間収納イベントリのおかげでサクサク進み、ミランダが土魔法で壁面を固めているところだ。

 最初は現場監督をしている神聖軍の騎士にその収容力を驚かれ、盛んにスカウトされる一幕もあったがそこは丁重にお断りした。


 レオはミランダに水筒を差し出して労っている。

 

「師匠、お疲れ様です」

 

 それに口をつけ美味そうに喉を上下させているのを見ながら、俺は壁面を少しずつ削って階段を作る作業をしている。


「あんなの俺してもらってないんだけどな」

 ちょっと拗ねたりして。


「ショーカンは空間収納イベントリにたくさん入っているでしょ?」


「へいへい」


 前回の回復水が、まだたんまり空間収納イベントリに残っているしなぁ。


「ところでレオ、例の話は進んでいるのか?」


 3日前に話し合った結果、戒厳令が敷かれる前にラエルをミランダさんの伝手で王都に脱出させる計画を立てていた。


「うん……それなんだけど、ラエルは心臓が悪いからね。無事に辿り着けるか不安になってるみたいで――」


 ビルの雇った暗殺者の雷撃で心臓が止まってしまったのも、元々心臓自体が弱かったせいでもある。途中でショックを受ける事があればまた心臓が止まる事だってある。


「そっか……怖いか……」


 命の危険を伴う移動に不安になるのは当たり前だ。こればかりは強制はできない。


「どうやら俺たちで守り切るしかなさそうだな」


 うん、と頷くレオをミランダが優しくかき抱く。


「大丈夫よ。魔力のありったけを出し切っても守るから」


 気休めであろうが救いの見えない現状ではそれに縋るしかなかった。


 ――――堀が完成して。


 検査のために底まで降りていく騎士を先導する。

 着物を採寸する時に使うような布尺を使って長さや深さ、幅などを数箇所に分けて測っては記録している。


 それも終わり上まで登ってくると、恐る恐る下を覗き込んでいるレオに、妙に危なっかしさを感じて腕を取る。

 

「何やってんだよ? あんまり近づくな、足元はわざと崩れやすくしてあるんだ」


 え……? と見つめ返すレオ。


「そこにいたら危ないって。もっとこっちに寄っててくれよ」


 レオの目に見る見る涙が溜まっていく。

 あれ……? 言い方キツかったか?

 

「これじゃダメ――きっとみんな死んじゃう」

 そう言うとレオは泣き出してしまった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る