第170話 神聖とは名ばかりの非情

「出来なければこの街は地図から無くなる」とエリック少将からショーカンは告げられる。


 ――――そう言われればやるしか無くなる。


「――補助アシストが欲しい。3日で仕上げろってなら土留めの代わりに魔法を使うから、土魔法使いの手配と事前の縄張り(大まかな範囲を指定する指標マーキング)もすませて欲しい。あと雑用も一人いる」


「ああ、それくらい構わない」


「指名しても?」


「当てがあるならなお良いぞ。遠慮なく言え」


「あと報酬は?」


 そこで初めてエリック少将は視線を彷徨さまよわせ、目当ての相手を見つけたか「アルツール男爵。こちらへ」

 と禿頭スキンヘッドの男を招き寄せた。


 あれ? どっかで見たような……なんて思っていると、眉間に皺を寄せた偉そうな男が近づいてくる。


「紹介しよう。こちらがアルツール・スメルゲイド男爵である。そしてこちらは――」


「ショーカンであったか?」

 細い眉毛の下から酷薄な目を投げてきやがる。


「はて、どこかでお会いしましたか?」

 

 スメルゲイド……スメルゲイド? スメルゲイドってあのビルの親父じゃねぇかよ。


「息子が世話になったそうだな」

 と無機質な眼でこちらを見返してくる。


「さて報酬だったか? 防衛は領民の義務だ、嫌なら出て行け――と言いたいところだが、多少の税金は免除してやる」


 つまり天引きを減らしてやるから文句言うなってか? 吝嗇ケチとは聞いていたが、これ以上粘ってもろくな結果になりそうもない。


「些細承知です。ではエリック少将閣下、補助は所属するパーティーの『チームリボーン』で請け負っても?」


「構わん――そこへ記録しておけ」

 と書記みたいな人に記録させている。

 

 そこへ記入している間に記録の横に名簿らしき物があり、ぼんやり眺めていると妙なことに気がついた。

 おそらく今回の迷宮暴走スタンピードに参加するメンバーが記入されている名簿なんだろう――それが薄い。


 そう言えば領主館に来るまでの間、神聖軍らしき兵を見かけていない。塹壕ざんごう掘りの監督に出回っていたにしても、軍と名乗るならば街にそれなりに人が溢れるはずだ。

 実際の騎士ってどれくらい街に来ているんだろう?


「つかぬ事をお尋ねしますが神聖軍はどれくらいこの街に?」


 スメルゲイド男爵が目の前にいるからつい丁寧な言葉になる。


「ん? 300だ。主に迎撃指揮、指導を仰せつかっている」


 領兵は使い物にならない、と聞いたことがある。

 と言うことはつまり……こいつら冒険者を使い潰す気だ。

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