第167話 ブレードリヒにチョイザマァ

 神聖軍のエリック・コルネリウス少将に目をつけられたとも知らず、ショーカンは塹壕ざんごう堀りに明け暮れていた。


「ショーカンッ、ショーカンはあるか?!」


 甲高い呼び声が聞こえるから塹壕ざんごうの中から顔を出す。


「げっ!?」


 俺にいきなり雷撃を喰らわせたとんでもないやつだ。相変わらず威丈高なキンキン声であたりを睨み回している。


「うわぁ、面倒くせぇ」


「そこにおるかっ!」


 また鞭を振り上げてやがる。

 また雷撃を喰らうのも面白くないから空間収納イベントリを起動して、細工を施してから顔を出した。


「はい、なんでございましょう?」


 これでも極力下手に出たつもりだ。


「遅いわっ、このブレードリヒ・フォン・マリウス少尉の声が聞こえんと言うかっ」


 振り上げた鞭を振り下ろすと、パチンッと閃光が走った。


「うわっ」


 思わず頭を抱えてしゃがみ込む。


「どうだ? 恐れ入ったか?」

 とニヤニヤ笑いながら近づいて来た。

 すっげぇむかつくんですけど?


「旦那っ、危ねぇ――!」


 そう言うと飛びついて塹壕ざんごうへダイブする。


「貴様っ」


「ふぅ……危なかった。旦那、こりゃ毒蛇ですぜ。コイツが旦那を狙ってやがった」


 適当な紐を叩きつけると、すぐさま空間収納イベントリへ収納する。


「馬鹿者……は、早く退かぬか」


 転げ落ちたついでに鳩尾みずおちに当て身をしてやったから呼吸できないようだ。  


「こりゃいけねぇ――旦那、ちょっと失礼しますよ」


 と背にまわり身柱しんちゅうというツボを探す。

 弱く押せば整体、やりようで急所。膝頭で当身あてみをすると激痛が走る。


「それっ」

 グキリっと音がした。


「かはっ」

 とそっくり返ると白目を剥く。

 だが、気絶の一歩手前で止めたから痙攣けいれんした横隔膜が正常に動いて息を吹き返した。


「き、貴様……何をした?」


「旦那……もう少しで息が止まる所でしたぜ。家伝の秘術で蘇生したので――息を吸ってみて」


 しかめっ面をしながら息を整えている。

「息が……できる? 息が楽になったぞ! 少しは役に立つようだな。それに我が雷撃をいかにして……?」


 タネは土手片手剣ファルシオンをに突き立て、そちらへ雷撃を誘導しただけ。


「たまたま流れたみたいで――ここらにはこんな毒蛇も多いですから、旦那も気をつけた方が良いですよ」

 と空間収納イベントリから迷宮ダンジョンで手に入れていた毒蛇をぶらーんとぶら下げてみせる。


「も、もう良い! 早くしまえ。それよりエリック少将閣下がお呼びだ。着いてこい」

 と腹立たしげに体を起こす。


 誰……それ?

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