第166話 ショーカン目をつけられる

 楽をして塹壕ざんごう堀りを終わらせようとしたショーカンは、その翌日から倍のノルマを科されてしまう。


 ――――――

「おーい、兄ちゃんここまでやってくんなぁ」

 塹壕ざんごうの幅と曲がりを決める目印の杭を立てていたオッチャンから合図がある。


「うぃ〜〜っす」


 とノリで答えると空間収納イベントリを起動して堀りの深さと形をイメージ。

 そしてそのあたりの土砂を一気に収納し、今度は堀の外に出て両脇にドバドバと土砂を放出していく。


「ホイ、終わり!」


 整形が終わると最後に土魔法の使える冒険者が土砂を固めていく。


 この間30分もかからなくなっている。

「さぁ、次はどこだ?」


 半ばヤケクソで次の区画へ向かいどんどん塹壕ざんごうを掘り進めていく。

 その様子を城壁の上から見ているやつがいることなんて、知らなかったんだよなぁ……とほほだよ。


 ――――第三者目線です。


 神聖軍のエリック・コルネリウス少将は、領軍の長となるアルツール男爵をともなって城壁の回廊へ登っていた。

 俯瞰ふかんすることで刻一刻と移り変わる戦況をイメージしたい、そう言い出すのも歴戦の、と類別詞がつく武将なのは間違いない。


 今年で35歳。

 士官大学を飛び級で卒業し神聖軍に加入してもう18年になる。

 季節は冬に迫り城壁の回廊は吹きっさらしの風に煽られて、灰色の景色をなお一層憂鬱ゆううつ単色モノトーン絵面えずらに染めていた。


「野戦……になるか」


 独りごちるのは目の前に広がる平野のせいで、障害物が城壁までないのは魔物が勢いを増してやってくる、と言うことだ。


「そのための塹壕ざんごうでございましょう?」

 アルツール男爵がせっせと広げている作業風景に目をやる。

 

 さらに視線を遠くに移すと、森の奥に飛び出ている岩山に明らかに不似合いな巨大な鉄の門が張り付いている。


「あれが迷宮ダンジョンの入り口かい? 意外と近いな」

 地図で何度も確認した迷宮暴走スタンピードの起点を確認する。


「左様でございますな」

 細く整えられた眉毛の下の冷酷な目に、わずかに愛想を浮かべてアルツール男爵はうなずいた。


「ドラゴンが出てくる――だったか?」


「そのせいで我が迷宮都市タレントゥムスは100年前の迷宮暴走スタンピードに一度、滅亡しております。

 ゆえに神聖軍をお呼び立てした次第で」


「ならば余計に仕掛けが欲しいところだが……」

 

 と再び城外に視線を落とすと、まるで地面を侵食するように塹壕ざんごうを広げる一団があった。


「へぇ……面白い奴がいるね」


 大変な人に目をつけられたようだ。

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