第165話 小賢しい悪知恵に泣く

 スコッと間抜けな音がすると目印までの土がなくなり、綺麗な堀が産まれた。


「「「「はあぁぁぁ――――?!」」」」


「よーし! 今日の担当分はこれで終わりっと。あとここら辺に土を盛っておけば良かったっすよね?」


 鞭を持ったままアングリと口を開けている騎士に聞くと、え? とか、あ? とか生返事が返ってくるばかりなので


「土魔法の旦那、こっち固めてもらって良いっすか?」

 とドバドバ土を出しながら指示する。


「ちょっと形を整えた方が良いか? 年少組っ、こっちでちょっと土を整えてくれ」


 と16〜7歳の少年冒険者を集めて整形を指示する。

 年少組がスコップでパンパン叩いて、形が整ったところで土魔法使いが堀と盛り土の部分を固めて一区画が終了。


「聖騎士の旦那、検査をお願いします」


 とビシッと向き直って慇懃いんぎんに腰を屈める。親会社の役員がやって来たと思えば良いのだ。

 肩書きと帳簿の操作で二言目には「経営のため会社のため――」などと口にする搾取するだけのクソ野郎には慣れている。


 だからわざわざ聖騎士なんて“聖”までつけてやった。

“様”までつけりゃ良かったか?

 まぁ俺のおベッカなんてこの程度で仕方ない。


「んあ? ……ああ、これより検査するから全員その場で待機せよ」


 なんとか威厳を取り繕うと“聖騎士様”は塹壕ざんごうに入っていき、突いたり叩いたりして土の緩みがないか確かめている。


「よし――問題ないだろう。せっかく早く終えたんだ、次の区画へ応援へ行ってもらおう」


 なんですと?! せっかく早くノルマをこなしたのに、同じ日当で倍働けと――?!

 嫌ですわ! それだけは嫌なの。


「“聖騎士様”――――まことにごもっともなんですが、手前も無理したせいで魔力が怪しいところでして……」


 つつ――っと近づくと「ちょっとお手を……」と耳元で囁く。


 銀貨を5枚(五千円くらい)握らせる。


「聖騎士様も行軍の疲れがございましょう。酒代の足しにでも……初日でもありますし、ここら辺で今日はご勘弁頂ければ」


 もらえる日当は大銀貨1枚(一万円)。

 差し引きで日当銀貨5枚(5千円)に目減りするが、洗浄水の樽詰めが終わってなかったから、そちらを終わらせた方が金になる。


「ん……? そうか?」


 とニンマリ笑う“聖騎士様”


「明日からは倍の区画で頑張ってもらうからな、今日は構わんぞ」


 と言い残して去っていった。

 なんでぇ…………(泣き)

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