第159話 ラスボスの予兆

 竜人リザードマンの亡骸を空間収納イベントリにしまう際にトパーズのような宝玉のペンダントが転がり落ちてきた。


「なんだ……これ?」


 不思議に思って拾い上げるとレオにもそれをかざして見せる。


「知らない。組合ギルドの鑑定士に見せてみたら?」


 レオも知らないとすると一般的な物ではないのだろう。

 とりあえず空間収納イベントリへしまうと、地上へ向けて歩き始めた。


 ――――冒険者組合ギルド組合長ギルドマスターの執務室にて。

 

「――――というわけなんだ」


 と空間収納イベントリから取り出したペンダントを出して見せる。

 

 ふぅん、とマーベルは難しい顔をして

「鑑定士に見せろ――結果は至急報告するよう言ってくれ」

 と同席した女性職員に手渡した。


迷宮ダンジョン竜人リザードマンかよ――特異点かもな」


 と眉間にギュッとシワを刻むと執務机の両脇にある書棚からファイルを抜き出し、ペラペラとめくり始めた。


「今から100年前、迷宮暴走スタンピードがあった事は知ってるな?」


 スルリと無造作にファイルを滑らせてくる。


「その時の調査報告書の写しだ」


 滑らせてくる報告書をペラペラとめくってみる。


 曰く『神の怒りに触れた』だの『前後の説明はつかないが、予兆としては……』という当時の記録があった。

 ところが貴族が絡むあたりになると、意味不明なほどぼかしてある。

 

「遠回しすぎて何が書いてあるかわからん」


「事象のところだけ読んでみろ」


 ならば――――と抜粋して読んでみると階層に不釣り合いな魔物の出現や、いないはずの魔物の出現など、怖いくらいに今回の事案インシデントと似通っている。


「マーベル……これ迷宮暴走スタンピードが起こるってことじゃないのか?」


「だとして――だ。なぁショーカン、迷宮暴走スタンピードはなぜ起こると思う?」


 口頭試験の試験官みたいなこと聞いて来やがる。確かレオは――


「本来ならいないはずの強者が浅い階層に出てくるからだろ?」


「聞いてるのは原理じゃなくて原因だ。そもそも竜人リザードマンってなんだ?」


「……竜の使徒なんだろ?」

 なんだか答えを誘導されているように思えるのだが、答えながらある可能性に思い当たって寒気がしてくる。

 

「そうだよ、それが出て来たってことは?」


「……竜がいるってか? だが、竜って北部の山岳地帯にいるって話じゃなかったか? 迷宮ダンジョンに竜ってあり得るのか?」


「通常ではあり得ない現象を特異点、という。

 今回はそれが現れた。竜人リザードマンの出現はその予兆だ、とすれば次に出てくるのはドラゴンだ」


 おっほぅ、ラスボスが出て来やがるってか?

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