第148話 やたらと優しく微笑むからムカつく

 やっとショーカンに話す覚悟を決めた。

 

「あのね……ひょっとしたら私。レオじゃないかも知れない」


 ショーカンは対面のソファにでしばらく固まっていたけど、居住まいを正して聞いてくる。


「レオ……どうした? レオはレオのままで良いんだぞ。自分を嫌いになる必要はこれっぽっちもないんだ」


 ちょっと話がずれているから事情を話す事にした。

 

「あのね……ショーカンが聖水をもらっていた時、いなかったでしょう? 実はあの時教会で洗礼を受けてたんだ。そしたらスキルが芽生えた」


「ほぅ? 良かったじゃねぇか」


「そのスキルが『鑑定眼真実を見通す目』。ただの鑑定じゃなくてその先にある可能性まで見通せるスキルなんだけど、ずっと気がかりだった記憶を鑑定したんだ……」


 こんな話は迷宮ここでしか話せない。

 もしこれから話す事が他の人に聞かれたら変なやつだと思うだろうし、厄介ごとになると『鑑定眼真実を見通す目』が告げている。

 だからショーカンに、と思ったけど迷惑をかける事になるかも知れない。


「鑑定したんだな? それでどうだったんだ?」

 と先を促してくる。


「やっぱりやめた――きっと迷惑かけると思う」


「何が迷惑なもんか、俺たちはパーティーの仲間じゃねぇか。つれないこと言うなよ」


「きっと厄介ごとになるよ?」


「その厄介ごとにレオが巻き込まれそうなんだろ? そう『鑑定眼真実を見通す目』が告げたんなら、味方しないわけないだろ」


 見くびってくれるな、とショーカンが憮然ぶぜんといている。


「わかったよ。ありがとう――とっても心強いよ。実は私、育ての親と産みの親が違うみたいだ」


「そりゃ……ないとは言えないが、その……親が気に食わないから実は違う親がいて――と言ったやつじゃないよな?」


「親にはちゃんと感謝しているって。でも時々、親と違う誰かが、パパとママって名乗ってて不思議だったんだ」


「ほぅ……それで鑑定してみたわけだ」


「そう――その記憶は本当のもので、その記憶の中のパパとママが私の事を『レオナ』って呼ぶの。だから私はレオじゃなくて『レオナ』なのかも知れない」


「ん……じゃレオナって呼べば良いのか?」


「そうじゃなくて――記憶に出てきたパパが、共同教帝だった前の教帝じゃないか? って話なの」


 ショーカンは難しい顔でそっと私の手を取った。

 

「レオ……落ち着け」


 やたらと優しく微笑むからムカつく。

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