第146話 封印されていた記憶

 おのれを知れと語るフィロソフォス知恵を愛する者・タレスから“滅びを回避する”使命を授かる。


「なんなんだよ、あのボケた爺さんは? 人違いした上に俺たちの使命みたいな事言いやがって……なあ?」

 とレオ見るが浮かない顔だ。


「ぬ? 気がかりなことがあるのか?」


「……よくわかんない。先、急ご」


 なんだかモヤっとしたまま安全地帯セーフティーゾーンに到着した。


 ――――レオ目線です。


 安全地帯セーフティーゾーンに入ると、例の迷宮ダンジョンに不釣り合いな王宮の応接間並みの空間が待っていた。

 

 幸い他の冒険者はおらずゆっくりできそうだ。

 私は言葉にできない疲労感が襲いかかってきて、豪華なソファに身を沈めた。


「疲れたか? そのまま休んでな。飯、作ってやっから」


 ショーカンはそのまま台所キッチンに入って、煮炊きの準備をしている。


『――何を目をそらそうとしている? 刻限は迫ってきている。答えはおのれの中にあろうがよ――』

 さっきのフィロソフォス知恵を愛する者・タレスに言われた言葉がグルグルと私の胸の中に渦巻いていた。


 私が目をらしている? 一体何から?

 馬鹿馬鹿しいと笑い飛ばせないのは、私が3歳になった誕生日の靄がかかったような記憶。

 

「パパからのプレゼントだ、受け取っておくれ」

 綺麗な箱を私の前にそっと置く男性。


「まぁ、ママも見てみたいわぁ。何かしら?」

 と、ご機嫌な女性の声。

 その声がの声とは違う声のような気がしたから、思い出すのが怖くてずっと記憶を封印していた。


「痛っ」


 額の魔素斑まそはんがピリリと痛む。きっとスキルが発動しようとしているせいだ。

 

 ショーカンが寄付と引き換えに聖水をガロン単位で授与されている間に、私は教会で祝福を受けてスキルを授かっていた。

 金貨20枚もする教会の祝福は、これまで貧乏で全く縁がなかったけれど前回の下水道清掃の『手間賃』で可能になった。


 ならば祝福を受けない手はない。

 そして芽生えた私のスキルは『鑑定眼真実を見通す目』。ただの鑑定ではなくその先にある可能性まで見通せるスキルだ。


 それが疼いている。


『――滅びに導いてしまう』と告げたフィロソフォス知恵を愛する者・タレスの言葉が真実であることと、封印した記憶がであることを告げている。


 かすみのかかったパパとママの顔の記憶にスキルを発動させると、そこに現れたのは私をパパとママとは別人の顔だった。

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