第143話 再び迷宮へ

 洗浄水を切らしたショーカンは再び迷宮ダンジョンへ潜ることとなる。ところが素材となるボアは、不死者アンデッドがいる第4層を通過しなければならないことをレオに告げられる。


 ――――


 不死者アンデッドと言えば聖水だ。

 聖水と言えば教会だ――と言うわけで教会の前にいる。

 前回は浄化水と間違って言霊水を噴射してエリア浄化物理破壊したが、あんなもの錯乱しなけりゃできるわけがない。

 不死者アンデッドが厄介なのは一体倒してしまうと、仲間を呼んで無限湧きする事だったから、倒さずに浄化してあとは全力で駆け抜けてしまえばいい。


「名付けて『倒さず浄化、聖水ダッシュ』作戦だ」


 ふふふ……と笑う俺をレオが鼻で笑う。


「作戦って……第4層あそこはみんなそうしてるんだって。前回はショーカンが一人でややこしくしたんじゃん」


 ぬぬ……そうとも言う。

 

 と言うわけで迷宮ダンジョンに入る前に、教会で聖水を入手しておく事にした。


 迷宮都市タレントゥムスは70万人が暮らす小規模都市だ。

 そんなところの教会だから絵画に出てくるような荘厳なものではなく、ちょっとしたゴシック調の三階建ての白い建物と言った感じで、礼拝堂は誰でも訪れることができるよう両開きの扉が開かれていた。


 カトリック教会の礼拝堂のように正面に『太陽神の女神アウーラ』の像が慈悲深い笑みを浮かべ、お供えの花が美しくそれを飾っている。

 そちらに向かって長椅子が並んでおり、熱心に祈りを捧げる教徒たちがこうべを垂れていた。


 礼拝堂の両脇の窓からは陽が差し込んでおり、窓の外は質素ながらも整えられた庭の樹木が柔らかな影を落としている。


「へぇ……」


 見回すと窓の上には宗教画だろうか? 聖書のストーリーを描いた堅苦しい絵が飾られていた。


「ん?」


 その中でも一際大きく美しく装飾されている絵画に目が留まる。美しい少女が跪く万民を前に優しく手を差し伸べている。

 その少女の顔に釘付けになった。


 あれって……レオじゃね?


 そう思うくらいレオに似ている。


「なぁ……あれってレオに似てないか?」

 と指差す絵画を見て、レオは慌てて俺の手を押さえる。


「馬鹿言わないでって。あれはこのコンスタンティ皇国の王女レオナ・アンガディウス様。アウーラ教の神官も務められている私とは対極の究極のお姫様ハイエンドトップカーストよ」


 あれが8層で出てきたハイトレントのフィロソフォス知恵を愛する者・タレスが言ってた子か。

 なるほどよく似てる。


 その時はそれくらいしか考えず、受付を済ませ聖水と引き換えに寄付をしたんだが……。

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