第140話 愛すべき冒険者ども

 ――――と言うわけで。

 冒険者組合ギルドのほぼ真向かいにある『オーク亭』に拉致らちされている。


「何で組合長ギルドマスターまでここにいるんだよ? あんた勤務時間じゃねぇのか?」


「細けぇ事気にすんなって。ほれエールが来たぞ、まだ手元に来ていないやつはいねぇか?」


 なんだかんだその場を仕切っている。

 

「みんなエールはまわったか? 来たな? んじゃ、ジョッキを持て、ほれ、そこも。そぉれ乾杯!」


「……か、乾杯?」


「なんだ湿気た面しやがって。景気良く行けよ、それっ乾杯〜っ!」


「「「乾杯〜っ!」」」


 そこは宵越しの金は持たない冒険者たちだ。あっという間にジョッキを飲み干す。


「おーい、女将っ。止めがかかるまでツマミもじゃんじゃん持ってこい」


 きっとマーベルが組合ギルドの経費で落とすんだろう――と思ってましたよ。この時は。


「お前さ、この間『マッド・ドッグ』の連中をぶっ飛ばしてただろ? 偉い腕が立つじゃねぇか?」


 親切に見習いのボードを教えてくれた髭面の冒険者が話しかけてくる。


「色々あって、いやありまして……」


「何だよ、丁寧語はナシだ。まぁ飲めや、そして稼ぐ秘訣を吐きやがれ」


 とジョッキを押し付けてくる。こう言う体育会系のノリはむしろ好きだ。

 じゃあ遠慮なく、と一気に飲み干して見せる。

 

「おおっ、良い飲みっぷりだ。俺からも受けてくんな」

 と次々とジョッキを近づけてはカチンっと打ち合わす。


 ――そしてえんもたけなわとなった頃。

「そろそろ秘訣も明かさなくちゃな? ショーカン」

 とマーベルが洗浄水の入った瓶を取り出した。


「何だそりゃ?」

 

「うるせぇ黙って見てろ」

 手元のジョッキに食い残しを詰め込んで、取り囲む連中を見回す。


「この洗浄水が秘訣ってわけだ」

 トポトポと注ぎ、準備した桶に中身を移すとゲル状に固まり流れ落ちて行った。

 

 ほれ、と陶器のジョッキの中を見せる。

 そこには脂の曇り一つ残さずキレイになったジョッキの内面が見える。


「これがありゃ、あっという間に綺麗になる。一区間1日もかからんだろう――それで手元に一人あたま金貨1枚と大銀貨4枚になりゃどうだ?」

 日本円に換算して諸経費を除いて日給14万円になる。


「「「乗ったぁ」」」


 そこらの冒険者どもがこぞって手を上げた。


「よーし、ここの払いは稼ぎまくったショーカンが持つっ。組合ギルドで受け付けして来いっ」

 とマーベルが声を上げると、ドッと組合ギルドへ駆け出して行った。


 なんで俺がおごるん?

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