第128話 ビル……お前を追放する

 ほうほうの体で領主館へ逃げ帰ったビルを待ち受けていたのは領主アルツール男爵の苛烈な処置だった。

 

「ビル……お前を追放する」


――――引き継ぎビル目線です。


「なんで……なんでですか? 確かに謹慎は破りました。ですがこれは貴族の名誉を侮辱した――「だれが?」」


 親父アルツール男爵が俺の弁明をさえぎる。


「貴族が神と契約した名誉を汚す者は神を汚すのと同じ、ゆえに非情な手段も辞さぬ。だがしかし――だ。

 冒険者組合ギルドは我が国に多大な税金を納めているゆえ、無闇に捻り潰すわけにもゆかぬ」

 椅子から立ち上がると俺の肩をポンと叩く。

 

「今回、名誉を汚したのは誰だ?」


「それはレオと言う小娘、し、少女とショーカンと言う無頼者です」


「ほぅ? だがこれはなんだ?」

 

 と、机から紙片を取り出してこちらに押しやる。


組合ギルド員レオ及び、その保護者ショーカンの命に関わる事件にご子息が関与している嫌疑あり』

 とある。

 

「そいつです。俺を陥れようとレオがでたらめを言って、ショーカンは貴族の名誉を侮辱したっ、だから俺は――」

 と語った時、胸がドクンッと高鳴った。

 

「だから何をしたんだ? なぜ行方を嗅ぎ回っていた?」


 親父アルツール男爵は、次に質問状と銘打たれた紙片を押しやる。

 ショーカンの雇った冒険者のことを聞き回っていた理由を尋ねて来ている。


「ショーカンなる者も罰として下水を清掃する予定、とある。そんな時におまえが汚泥まみれで帰ってきた、お前は何をした?」


「それは侮辱したショーカンに謝罪させようと――」

 また胸がドクンッと高鳴って、目の前にあの下水道の光景が蘇ってきた。


 ショーカンが俺に近寄ってくる。

『お前はレオに何をした? 犯そうとした挙句、盗みをでっち上げて殺そうとしたんだろうがっ』

 銀色の全身鎧フルプレートアーマーが死霊の衣装に見えた。


「俺は……」


 暗くて蒸し暑くて空気が悪い。そんなダンジョンと下水道の光景が被って見えた。

 

『――そんな所にお前はレオを置き去りにしたんだよ』

 死霊のささやきが耳元で反響し

 

『次は川に浮かぶ事になる』

 

 と地の底から響くような声を発すると、銀色の全身鎧フルプレートアーマーがガチャリと身を起こし近づいて来る。

 それは伝説に聞く死霊騎士リビングアーマーのようで、心臓が破裂しそうに高鳴った。


「うわぁぁぁぁ――っ、俺が、俺が悪かったぁっ」

 

 絶叫する俺を見て親父アルツール男爵はため息を吐き、やはりか……と呟く。


「ビル、お前は追放だ。以後、家名を名乗る事を許さん。名をあげて汚名をすすげ」


 非情な沙汰が言い渡された。

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