第125話 汚物はちゃんと洗わなくちゃね

 ビルは年少の冒険者を買収して俺の雇った冒険者を聞き出し、その子の後をつけて来たようだ。


 ギリリと再び矢をつがえる音がした。

 バスターソードを正眼に構えなおし、ピシュと空気を切る音に合わせて反射的に矢を払い落とす。


「チッ、この暗さで矢を落とすなんざ化け物かよ」


 再び矢筒から矢を引き抜く音がする。

 今度はカチカチと火打石の火切りの音がして火花が見えるから弾頭付きだ。

 

「テメェが出てきたばっかりに何もかもうまくいかなくなっちまった。テメェが居なけりゃ丸く収まってたんだ――死んじまいな」


 キリキリと弓を引き絞る音がして火花がこちらを向いた。


 あれを食らえばいくら全身鎧フルプレートアーマーといえど損傷する。


 どうする? なんて迷ってる場合じゃない。

 極限まで集中する――ふぅっと息を吐き意識を集中した。

 すると

『アップグレードの制御を解放します』

 刹那の間にアナウンスが頭の中に響いたかと思うと、不思議なことが起こる。

 

 ヒョウと放れた矢は火花を散らしながら迫ってくる。

 迫ってくるんだ。やたらとゆっくりと。


 あれ……?

 なんだこの感覚?

 

 矢をたたき落としながら、そのままスルスルと近づいて行く。

 そのままバスターソードを振り抜きビルの弓を弾き飛ばした。


「なっ?!」


 ビルがタタラを踏みながら驚きに目を見開く。

 

「よーし、お仕置きの時間だ」


 ビルがレイピアを引き抜こうとしたから、追い足で前蹴まえげりを叩き込んだ。


「ほげぇっ」


 体をくの字に曲げて吹き飛んでいく。

 抜きかけていたレイピアが手から離れてボチャンッと汚水の中に消えた。


「げはっ、ああ――っ?!」


 それはよほど大事なものだったらしく、暗闇の中に目を凝らしている。


「貴様ぁ、よくも、よくもやってくれたなっ。あれは迷宮ダンジョン産の貴重な――「知らねぇよ」」


 身勝手なことを言いやがるから途中でさえぎってやった。

「知らねぇよ。テメェが勝手に落としたんだろ?」

 大事なことだから二度言っておく。

 

「何から何まで身勝手な野郎だ。自分の尻も拭えねぇ汚ねぇやつは下水道がお似合いだぜ」


「何を?!」


 ビルが怒りで声が裏返った時ひらめいた。


 汚ねぇ? そうだ洗ってやろう。

 

『在庫システムオープン』


 目当ての物を見つけてニヤリと笑う。


「汚ねぇモノは洗わないとなぁ、洗浄水噴射っ」


 指先がモゾモゾして洗浄水が圧力を高めていく。

 そう、まるでCMで見た高圧洗浄機みたいに大量の洗浄水が吹き出した。

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