第124話 こんな所で会う事になろうとは

「誰だ、いるんだろう? 出てこいよ」


 そう声をかけると返事代わりにビュッと矢が飛んできた。

 バスターソードを振るい矢を逸らす。

 返す剣でトンネルのフックに差し込んでいた松明たいまつを叩き落とすと、あたりは真っ暗になった。


「領兵じゃないようだな?」


 声をかけるとその声を頼りにまた矢が飛んでくる。

 闇で矢を放てるのは気配だけで空間を把握できる感覚を持ち、日常的にそんな環境に慣れている証拠だ。

 基本、夜戦をしない領兵はそんなことはしない。


「冒険者か……? ビルなのか?」


 ガチャリとスパイクが滑る床を踏み締める音がした。

 脚を踏ん張っている?

 もう一度射掛けてくるつもりだ。

 足元に転がった松明たいまつを下水に蹴こむと、水音を頼りに矢が飛んでいく。

 こんな状況でも正確に位置を把握してくる。

 ビルを臆病な卑怯者と侮っていたが、無能ではないのかも知れない。


 俺の全身鎧フルプレートアーマーは闇夜でも、夕暮れくらいの視界で映し出してくれる。

 このまま夜戦ならこちらのものだ。バスターソードを脇構えに寝かせてビルの気配目掛けて走り寄った。


 再びビュンと風切り音がして矢が放たれ気配を頼りに素早く切り上げる。

 カッ、と払った手ごたえを感じた時だ。


 パァン、と爆発がトンネルに反響し耳がキーンッとなる。


「ぬ……火薬か?」


 矢の先に火薬が仕掛けてあったようだ。

 それでも閃光に目が眩んだだけだから、そこまでの量ではないんだろう。

 シュ、シュ、と風切り音を立て続けに感じたから、すぐにその場を飛び退く。

 飛び退いた後に跳ねたそれは火花をあげてあたりを照らす。一瞬、明るくなったトンネルの200メートルくらい先だろうか?


 鉢金を被り金属の小手と脛当すねあてをした革鎧姿かわよろいすがたのビルが矢を構えていた。


「こんなところまでご苦労なこったな、ビルッ」

 バスターソードを正眼に持ち替えて油断なくうかがいみる。


「なんでここがわかった?」


「馬鹿か? ちょっと頭を使えば分かろうに」


 あざけりとともに矢が放たれた。

 またも閃光が走り直前で爆発したせいで目が眩む。


「ぬ?!」


 思わず目をかばい後ずさると今度は爆薬の付いていない矢が襲ってくる。


「ぬぅ……」


「他は口が硬かったからな。年少(の冒険者)どもに金をばら撒いてテメェが雇うやつを教えてもらったよ。そいつをつけて見ればビンゴってわけだ。バァカ!」


 ギリリと再び矢をつがえる音がした。

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