第122話 こっちでも懲罰されるリビングアーマー

「あ? クソ面白くねぇが、今日のところはこれで帰ってやる。言っておくが俺は納得してないからな」


 けたたましくビルが去った後。

 再びマーベルギルドマスターに連れられて執務室に入ったら、依頼書を差し出された。

 しかも束で。


「はぁ?!」

 

 それ自体は冒険者ならある事なんだろう。問題はその中身だ。


「冒険者研修を受けろってのはわかるが、なんで俺が一週間の下水道清掃なんだよ?!」


 マーベルの厳つい顔の眉間にしわがより、顔面凶器みたくなっている。

 

「溜まった下水クソが処理できなくてな」


 なんの事だかわかりませんが?

 解説を求む! とミランダを見ると苦笑いしている。


「罰よ。さっき貴族の血族相手に暴言を吐いたでしょう? あのままだと報復に領兵が押しかけてくるから、組合ギルドもショーカンにも罰を課したって事にするわけ」


「あれが暴言か? 真っ当な言い分じゃねぇか」


「それでも名誉を傷つけたって言いがかりにはなるわ。だからやられる前に罰を課した形で鉾を納めてもらうのよ」


「よーし、ぶん殴ってくる」


「なんでそうなるのよ。少しは反省したら? 冒険者組合ギルドにも飛び火するかも知れないのよ」


「なんでそうなる?」

 

 不満と疑問符が飛び回る俺を見て、マーベルが苦笑いをしながらつるりとハゲ頭をなぜあげた。

 

「あのな――お前がすっげえバカだってのはわかった。

 せっかくビルが暗殺者を雇った自供を取れたんだ、降格に横車を押されることもない。

 その上で『暴れ込んできたからこちらで保護しました』って拘束してたら、領主と取り引きできただろ?

 貴族は面子めんつを立ててやりながら交渉するしかないんだよ、それを正面切って喧嘩売りやがって」


 やらかした……のか?


「最悪どうなる?」


 マーベルがものっそい渋面で肩をすくめる。

「領兵の派遣、パーティーの拘束及び冒険者組合ギルドの封鎖とかだが?」

 

 そうなるなら下水道清掃の方がマシだ。

 だが――負けたようで気にくわねぇ、って顔をしてると。


「――隠すしかないんだよ、お前を。

 領兵も行きたがらない下水道なら、どの区間にいるかはわからねぇとしておきゃ、よほどのことがない限り探すふりだけで領兵もサボるさ。一週間もすりゃほとぼりは冷める。

 それまでレオとラエルは施設に保護しといてやる」


 どうやらこの世界の貴族はヤクザよりタチが悪いらしい。

 そのヤクザより悪そうなマーベルがペン先で俺を指し「――と言うわけでこれから冒険者研修で、明日から下水道だ」とのたまった。


 まじっすか?

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