第116話 外堀りを埋める

 ビル・スメルゲイドがレオに「組合ギルドに訴えてやる」と抗議されたことを逆恨みし、置き去りにした――その事はビルのパーティーメンバーへの聞き取りで、組合長ギルドマスターのマーベルもしっかり押さえていた。


 ――――第三者目線です。


 そのマーベルが夕方、事件の概要を本部への報告書にまとめているとミランダが尋ねて来た。


「マーベル組合長ギルドマスター、少しよろしいかしら?」


 受け付け嬢から通されて執務室へ入って来たミランダは、窓からの西陽をカーテンを少し手荒に閉めながら振り返った。


 白いカーテンがオレンジ色に染まり、黒いシルエットだけ浮かび上がらせるミランダの声は苛立ちを含んでいる。


「ビルが呼び出しを拒否したって?」


 少し棘のある声色にマーベルは苦笑いを浮かべるしかない。


「ああ、その通りだ」


「それで組合ギルドとしてはここまで舐められて指をくわえて縮まっているつもり? それともお貴族様には敵わないから『ここらで妥協しろ』って言い含めるとか?」


「……まぁ座れよ」

 と促すマーベルに言い訳は聞きたくないぞ、と言わんばかりの冷たい雰囲気を漂わせながらミランダは席に着く。


「ずいぶんレオに入れ込んでるじゃねぇか?」


「そりゃ同じパーティーで同じ女ですもの。とても黙っていられないわ」


「おまえなら見習いパーティーに構うよりも、他にも引く手あまただろうがよ?」


「それとこれとは話が別よ。『共助の情け』はこんな時のためにあるんじゃないの? 年端もいかない少女を乱暴しようとしただけじゃなく、深層に置き去りにしたのよ?

 とても許す気にはならないわ」


「そうカリカリしなさんなって――外堀は埋めてある。楯突くなら査定を下げるぞ――って脅したらビルのパーティーメンバーはあっさり自供したぞ」


 ミランダは少し安心したのか肩の力を抜くと、口角を上げ白い歯をのぞかせて身を乗り出した。


「やるじゃない組合長ギルドマスター。これでなし崩しにするつもりなら移籍も考えるところだったわ」


 おいおい――とマーベルは呆れ顔で手をヒラヒラさせた。

 

 基本的に冒険者組合ギルドは支部ごとに独立採算だ。だからどれだけ高ランクのパーティーを抱え、次世代を育成できるか? で支部の売り上げは変わる。

 ゆえに今回のようなトラブルを、キチンと対応できない組合ギルド支部は移籍や意欲の低下で売り上げを落としてしまう。


「暗殺者組合ギルドにもなしをつけてくる。逃げ得はさせねぇよ」


 夕陽に染まるマーベルの顔は赤く染まって見えた。

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