第115話 あの時あったこと(ビル目線)

「ビルが聞き取りを拒否したらしいわよ」

 とミランダが告げる。


「なんだよ、そりゃもう後ろめたい所がありますって言ってるようなもんだろ」


「きっとビルはアルツール男爵の三男だからって――」

 レオが悔しそうに部屋着のふわっとしたズボンの裾を握りしめて、悔しそうに唇を噛んだ。


 想像してなかった事態に悪い憶測が噴出する。


「組合員である以上、組合ギルドからの要請は応じる義務があるはずよ。私が夕方でも組合長ギルドマスターに確かめて見るわ」


 俺も乗り込んでここは一発――


 と、身を乗り出したら

「貴方はここにいて。貴方が乗り込んだら事件もただの私闘ケンカに扱われてしまうわよ。

 明日、施設を移すんだからレオちゃんの準備を手伝って」

 と、止められた。


 ぬぬ……致し方なし。


――――ビル・スメルゲイド目線です。


 オレ――ビル・スメルゲイドは驚き、そして憤っていた。


 死んだと思っていたメスガキが迷宮ダンジョンから生還し、オレを訴えて来やがった。

 迷宮の第十層だぞ? 最初は組合ギルドから送られて来た召喚状に我が目を疑った。


 普通、死ぬだろ?


「チッ、大人しく死ねば良かったのに」 


 召喚状に目を戻すと不愉快な文言が羅列してある。

『組合員レオへの迷宮ダンジョン深層部に放置した件について、組合員レオより抗議がありました。

 ついては事実関係の聴取を――――云々うんぬん』だと? 腹立ち紛れに召喚状を握りつぶした。

 

 笑わせんなって。オレは貴族の血青い血を引く者だぞ? 平民ごときが貴族の血族を訴える?

 どうやら舐められているみたいだなあ?

 元はと言えばあのメスガキがあんなことを言うから悪い。

 

 きっかけは無理な迷宮挑戦ダンジョンアタックだった。

 第十層に到達できる――それは冒険者にとってステータスだ。十層に到達できる腕を持っているパーティーには、高単価ハイリターンな仕事も集まってくる。

 だから訓練を重ね、装備も十分に準備して挑戦したつもりだった。


 ところが――だ。

 湧く魔物という魔物は、とてもオレたちの敵うものじゃなかった。

 安全地帯セーフティーゾーンに逃げ込むので精一杯だ。

 

 ついイライラして誰も見てないところでレオを突き飛ばしてやったら、丸い尻を向けて転げやがった。

 ついムラッとしてズボンをひん剥こうとしたら、悲鳴を上げやがるから平手うちで黙らせた。


「……っ、組合ギルドに訴えてやる」


 涙目で抗議するレオに、取り巻きどもも『何があったんで?』と集まってくる。


「ここの荷物を漁るんじゃねぇぞ!」


 そう芝居を打つと次の第十層に置き去りにすることを決めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る