第114話 避難と不吉なニュース

 アルツール男爵から圧力がかかり憤っていると

「まぁ任せろ。それよりお前は風呂でも入って出直してこい。血生臭くていけねぇ」

 とマーベルは鼻を摘んで顔をしかめた。


 ――――冒険者組合ギルドを退出して。


「確かに臭いわねぇ」

 と俺から少し離れて歩くミランダに恨みがましい目を向ける俺。


「ともかく別の保護施設へ移してもらうことにしたわ。必要な買い出しなんかは私がする――ここまではいいわね?」


「いつまでなんだ?」

 

「ビルの聞き取りとアルツール男爵への対処が終わるくらいまでかしら?」


「それまで軟禁かぁ」

 はぁとため息が出てくる。

「普通は冒険者の保護施設に手を出してくる、なんてしないもの。仕方ないじゃない」

 ミランダがやれやれと肩をすくめる。


「要人とのトラブルや、冒険者同士の諍いの時使うんだけどね。施設への攻撃は組合ギルドへの攻撃と変わらないから、襲撃は普通ないのよ」


 ミランダが前に向き直り施設へと歩みを進めていく。


「冒険者同士もいさかうことがあるのか?」

「分配のトラブルとか男女のもつれとか――ね。組合ギルドが仲裁に入るまでの短期間がほとんど」


 今回のような暗部が動くケースは珍しいらしい。

 なんにしても組合ギルドに冒険者を守る仕組みがあるだけでもありがたい。

 保護施設に戻ると組合ギルドの手配してくれた年少の冒険者たちが、清掃や後片付けをしてくれていた。

 レオの様子を見るとラエルのベットの傍に持たれるように眠っている。


「あとは私がやっておくから、貴方はお風呂に入りなさい」

 促されるままに風呂に入って向かうと、ハタと気がついた。


「なぁ、ミランダ。俺、着替えを持ってないんだが?」


 はぁ? と固まる。

 

「貴方、ずっと全身鎧フルプレートで過ごしてたの?」

「買おうと思っていたが、変な輩を見かけたから施設を離れるわけにもいかなくなって――」


「了解、――買い出しに出かけましょう」


 交替で帰ろうとしていた冒険者に留守を頼むと、再び街へ引き返した。

 

 ――――綿の下着と麻色のシャツ、濃紺のズボンを何着か買うと施設に戻り風呂でこれまでの汚れを落とす。

 空間収容イベントリから洗浄水を放出し、頭から引っ被ると焦茶色に変わって流れ落ちていった。


 汚れを相当溜め込んでいたらしい。

 毛穴まで詰まった汚れを洗い流し、サッパリとして普段着に着替えるとリビングには目を覚ましたレオと、ミランダが待っていた。


 やあ、と手をあげるとミランダの表情が固い。


「ビルが聞き取りを拒否したらしいわよ」

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