第113話 血生臭くていけねぇ

“魂のコイン”によって一命を取り留めたラエル。

 歓喜に震えるレオと安堵したミランダ。後から駆けつけてくれた冒険者たちにも安堵の輪が広がる。


 この借りはしっかりと返してやらねばならぬ。と俺は決意を固めた。


 ――――その翌朝。

 衛兵の型通りの現場検証が終わり、片付けもそこそこに俺とミランダは冒険者組合ギルドへ出頭していた。

 駆けつけてくれた他の冒険者が護衛を買って出てくれたから、眠り続けるラエルの看護にと、レオを保護施設に残して来ている。


「ふぅん……」


 組合長ギルドマスターのマーベルが苦い顔で昨夜の襲撃の顛末てんまつを聞いている。


「どうやら敵はレオ君の始末を暗殺者ヤミギルドに手配したようだな」


「なんだよ、その暗殺者ヤミギルドって」

 

「ああ、新人ルーキーなら知らなくて当然だ。依頼を受けた厄介者の始末を請け負う連中さ」


「傭兵みたいなもんか?」


「もともとは、な。その傭兵組合ギルドの特殊部隊が独立して組合ギルドを形成した。実際、傭兵の斥候も請け負ったりしている。

 貴族が後ろ盾になって依頼主の情報は秘匿され秘密は絶対に守る。だから今回の黒幕を炙り出すのは難しい」


 黒幕なら話は簡単だ。

 レオを狙う動機があるやつはアイツらしかいない。


「ビルかその親父のアルツール男爵がやったに決まっている。ビルは口封じで、男爵は息子の尻拭いだ」


「そりゃみんな思うだろうが証拠がない。一応その線で攻めてみるがな。暗殺者ヤミギルドは厄介なんだよ、なにせ奴らの後ろ盾はアルツール男爵の加盟する一派だ」


 歯痒さにギリリと拳を握りしめる。

「おいおい、ここで血迷って暴れてくれるなよ? 俺としても冒険者組合ギルドめられたようなもんだ、はらわたが煮え繰り返ってる」

 それに、と軽く眉間を揉みながら


「アルツール男爵から通知が届いたよ。『今回の襲撃事件は領の治安の問題だから衛兵が預かる。冒険者組合ギルドは手を引け』――ってさ」


「なんだと? あんな雑な調査しかしない衛兵なんかに任せるのか? お蔵入りにする気満々だろうがよ」


「そうイキリなさんなって、もちろん突っぱねるさ。

 冒険者組合俺たちは迷宮都市、ここタレントゥムスにも国にも高額な税金を納めている。

 貴族だからって一方的な幕引きにゃあ、させんよ」

 と眉をひそめて指さきをくるくる回した。


 それでもいきどおりがおさまりませんが? と言った顔をしていると、

「まぁ任せろ。それよりお前は風呂でも入って出直してこい。血生臭くていけねぇ」

 と鼻をつまんで顔をしかめた。

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