第112話 ラエルの蘇生

「退いてっ、再生リサクション!」


 と唱えると金箔が降り注いでくる。

 それでも息を吹き返さないラエルを観てミランダの顔は厳しさを増す。


 何かないか? 何か――と『在庫システム』を起動した。


 万能薬エリクサーみたいなものなんかないか?


 焦る俺の目の中に『在庫システム』の一覧が表示される。


「――――

 ――――

 ◯魂のコイン 

 ――――」


 と、ある。

 ん? こんなのあったっけか? そう言えばジル伯爵を退けた時に空間収納イベントリにしまっていたような?

 

 とりあえず魂のコインをポチった。手のひらにコロンと転がり落ちてくるコイン。


 さてどうやって使うんだ? そうしている間にもラエルの顔色は土気色に染まっていく。

 ミランダが唾を飲み込み、ふぅと息をついた。


「今は水魔法で血の循環を補助しているけど、心臓が動いてくれないと――」

 ミランダの魔力が尽きたところで、ラエルは死んでしまうと?


「ミランダさん、私の魔力を全部使って続きを……」

 と袖に縋ってイヤイヤと首を振る。


「レオちゃん、できるだけの事はするわ。でも、最悪の時は覚悟してね」


 と縋る手に手を優しく添えて再びラエルに向き直り、詠唱を始めた。すると俺の手の中のコインが輝き出した。


「なぁ、こんな時になんだが……」

 あのコインはミランダにもレオにも取り分を受け取る権利がある。


「あのコインのことなんだが――」

 

 と口を開きかけるが二人とも必死で俺の声はそこらの空気に霧散した。

 手のひらのコインは光続けている。


 使い方はわからないがままよ、とコインをラエルの胸の上に置く。


「? ショーカン、それどうしたの?」


 怪訝な顔のミランダが振り向いた時、コインがピカリと輝いた。


 ドクンッと体が脈打つように痙攣し、「うっ」と軽い呻き声をあげてラエルが身じろぎする。


「ラエルッ、ラエルッ!」


 レオがラエルに取りついた。

 そんなレオの背中に手を当てて落ち着かせるとミランダが胸に耳を当てる。


「心臓が動いている?!」


 見ると小さく胸が上下している。

 自立呼吸が戻っている。助かった……のか? 


 再びラエルが再び身じろぎすると、うっすらと目を開けた。


「お姉……?」

「ラエルッ、ラエル」


 抱き合う二人に安堵しながらミランダと目を見合わせた。


「助かったようだな」


 背後からの安堵の声に他の冒険者たちも駆けつけてくれていた事を思い出した。


「ああ、そのようだ。こんな目に合わせてくれたやつに借りは増えたがな」


 しっかりと返してやらねばならぬ。

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