第110話 毒針を叩き折る

 黒ずくめ野郎の使う『雷撃スタン』の魔法で全身が痺れてしまう。

 黒ずくめが杖を振るうと毒針が飛び出した。


 それを全身鎧フルプレートの喉の継ぎ目に先端を当てるのをブンブンと右手を振るい抵抗する。


「チッ」

 と再び舌打ちした黒ずくめ野郎一号。

 後ろに控えていた黒ずくめ二号を振り返り、「抑えろ」とだけ短く告げる。


「馬鹿が」


 黒ずくめ二号はどう言うわけか一号を無視して、レオに近づいて行きナイフを取り出した。

 やはりこいつらの狙いはレオだ。ビルが口封じに寄越したに違いない。


 俺を素通りして、背後にいるレオに手にしたナイフを振り上げた時。


「んがぁぁぁ――ッ」


 痺れる全身を鞭打ってそいつにしがみついた。


「うわっ」


 アーマーだけでも30キロ近くある。

 そんな鉄の塊が足元にぶつかったのだ。バランスを崩して半鐘に倒れ込む。


 ガシャーンッと半鐘が鳴り黒ずくめが崩れ落ちると、ちょうどレオの上に倒れ込んだ。

 おそらくコイツも毒を仕込んでいるはずだ、レオに触れさせてはいけない。レオから膂力りょりょくで無理矢理引き剥がし背にかばう。


「だから……」

 と黒ずくめ一号は二号を睨み、毒の刃を鎧の隙間に差し込もうと腰を屈める。


 右腕の魔法絆バイパスが光った。

 見るとレオも気がついたのかうっすらと目を開けて、祈るように目を閉じると不思議なことに痺れが引いていく。


「だからコイツから始末しないと面倒なんだ」

 と一号が二号に抗議しながら俺を仕留めようと、刃を突き通そうと息を込めた時。


「ぬがぁぁぁ」


 裂帛れっぱくの気合いと共に胸元を蹴飛ばした。


「ボゲラッ」


 何かを撒き散らしながら飛んで行く黒ずくめ一号。


「貴様っ、くそ!」


 レオから引き剥がされた黒ずくめ二号が毒ナイフを振り下ろしてくる。頸動脈を掻き切りにくるのは流石の暗殺者技なのだが、あいにくそこはプレートに被われている。

 ガリッと弾かれて我に戻ったのか、改めて距離を取ろうと飛び退った。


『在庫システム起動』


 目の端のカーソルが空間収納イベントリの一覧を紡ぎ出す。

 黒ずくめ二号を睨みながら床に落ちた小太刀ファルシオンを拾い上げ右手に持ち替えた。


「どうした? 来いよ」


 痺れが引いたはずの脚がふらつく。

 それを見た黒ずくめ二号が腰から小太刀くらいあるナイフを抜き去る。これにもたっぷり毒が塗られているようだ。


 シッ、と空気を吐き出して斬りつけてきた。

 ひっかかりやがった。


『在庫システム、バスターソード』

 

 念じた獲物は俺の手に顕現し、そのまま突っ込んできた黒ずくめ二号を貫いた。

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