第109話 デカいネズミは他にもいるのがお約束

 侵入して来た黒ずくめを片付けた、と思ったら寝室の窓ガラスを破り、別の黒ずくめが二人転がり込んで来た。


 俺の後ろへ逃げ込んできたレオをじっと見つめ、次に床に転がっている黒ずくめを目にすると「チッ」と舌打ちする。

 顔はマフラーのようなもので覆われているからわからない。だがなんの感情もないガラス玉のような瞳が、冷酷で残忍な性格であろうと想像させた。


「テメェら何者だ?」


 聞いても答える気はないだろうが、時間稼ぎにはなる。

 応接間兼リビングから二階へと伸びる階段には、登りきったところに寝室に続く二十畳ほどの踊り場がある。


 元の持ち主が冒険者ならではの理由で装備を手入れするスペースになっている。その奥が風呂になっておりすぐ隣が寝室だ。

 黒ずくめ野郎とやり合ったのもここで、風通しの小窓のそばには半鐘が吊るしてある。

 保護施設で何か不測の事態が起こった時のために、冒険者組合ギルドが後から取り付けた物だ。


 寝室から侵入して来た黒ずくめどもと対峙しながら、半鐘のある小窓までジリジリと後退している。

 この半鐘が俺の狙いだった。


「貴様らビルの回しもんだろ? それともの領主様のアルツール・スメルゲイド男爵の暗部ってとこか?」


 もとよりそこまで広くない踊り場だ。ジリジリと下がりながら、半鐘に届く位置まで退がって来た。


 ガラス玉のような冷酷な目がすっと細まる。

 俺はチラリと後ろの半鐘との距離を測ると黒ずくめ野郎に笑って見せた。

「ほぅ? どうやら図星なようだな。早めに逃げた方が良いぜ。まもなく組合ギルドから応援が来る」

 

 油断なく小太刀ファルシオンを突きつける。まだ柄巻きの皮が血濡れているから地味に気持ち悪い。

 十分に手の届く範囲に入ったところで、レオを振り返った。

 

「レオッ、ここは任せて半鐘を鳴らせっ」


 魔法絆バイパスで俺の意図は伝わっていたのか、即座に半鐘に取り付いて鳴らそうとした。

 だが不気味な黒ずくめ野郎が片手をかざし

雷撃スタン

 と発するとパァン、と目の前が真っ白になりその場に崩れ落ちた。

 

 なんだ――魔法か?


「テメェ……なにしやが――」


 つかつかと歩み寄る黒ずくめを睨みつけるが、痺れがおさまっても全身が鉛を仕込まれたように重く、反撃できそうにない。

 レオとラエルを視界の端にとらえると、二人とも気を失っているようだ。


 ぬぬぬ……絶対絶命。


 黒ずくめ野郎は手にした杖を一振りすると嫌な匂いのする刃が飛び出して来た。

 

 それって毒針よね?

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