第108話 デカいネズミは1匹とは限らない

「ぐっ」


 と漏れる小さな悲鳴。

 黒ずくめをそのまま突き飛ばし、鉄履スチールサバトンで蹴り飛ばした。

 ゴロゴロと転がった黒ずくめはそのまま動かなくなる。


 他に刺客はいないか――?

 取り落としたランプを拾い上げ側面のつまみをガチャガチャと回すと、中に仕込まれた火打石が火花を飛ばし再び塔色の灯りが灯る。

 あたりを照らして気配を探るが大丈夫そうだ。


「レオッ、ラエルッ大丈夫か?!」


 寝室が開くと中からランプを手にしたレオが顔を出す。

「ショーカン、凄い音がしてたけど……」

 

「ああ、心配ない。デカいネズミが紛れ込んでたから片付けた。ラエルには見せるな、結構グロいぞ」

 俺が顎で倒れている黒ずくめをしゃくると、恐る恐るそのシルエットを見て、後から覗こうとするラエルの目隠しをする。


「なんだよ、お姉」

「すっごい大きなネズミよ。汚いから見ないの」

「なんだよ、ネズミくらい怖くないよ」


 好奇心を刺激されてラエルが不満げだが、幼い子供が見て良いもんじゃない。


「ラエル。でっかいネズミには悪霊がつくんだぞぉ、お化けが出たら嫌だろ?」

 そう脅すと、キャッと言って後ろへ飛び下がり枕を抱えて戻ってくる。


「レオ、他にデカいネズミが隠れてないか家探しするから、ラエルを寝かしつけて置いてくれ」


 そう言って黒ずくめに近寄り、息があるか確かめてみた。足で転がすとだらりと手が垂れる。

 ドラマで見た通り、首筋の頚動脈に手を当て脈を取ってみるが反応なし。


 グロいが瞼を開けてランプで照らしてみるが、瞳孔は開いたままだ。胸も上下しないところを見ると、呼吸も止まっている。


 うわぁ……言葉を失うわ。

 だが散々迷宮ダンジョンで魔物を屠って来たせいか、思ったほどショックはないのには自分でも驚いた。

 

「南無阿弥陀……」

 一応、念仏も唱えて――あ、この世界だと違うのか?

 

 しばらく物言わぬ骸を見下ろしこれからの対処を考えていると、ん? と何か引っかかった。

 

 確実に殺しに来るなら刺客が一人とかあり得ないだろ。こんな時、殺し屋が入って来るとすれば――?


「レオッ窓際から離れてこっちに来いっ」


 と声を張った。

 ん? 顔を出したレオも何かを勘付いたのか、すぐにドアを開け

「ラエルっ、おいで!」

 と手を引き俺のそばに駆け寄る。

 

 その途端、寝室の窓ガラスがガシャンと割れると、黒ずくめが二人転がり込んで来た。

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