第106話 やたらと強い侵入者を煽ってみた

 安息日の深夜。忍び込んだ賊から蹴りを喰らって吹き飛んでしまう。

 やだよ。やたら強ぇよ。


 冷や汗が出てきた。

 迷宮ダンジョンの魔物にも引けを取らないこの俺が、あっさりカウンターを喰らって吹き飛ばされた。

 思えばこの世界でおそらくこの手のプロとの対戦は初めてだ。


 魔物と人間の違いは知恵を使うことだ。

 魔物がフィジカル頼みのパワーゴリ押しなのに比べて、この手のプロたちは弱点を肌で感じ取って、いくつも伏線を張りやがる。


 どう動けばどう反応するか?


 それを観察し経験でもって着実に突いて来る。

 さっきのだって俺の弱点はレオとラエルだ。二人を襲う素振りを見せれば全力で追いかけて来る、と踏んでそちらへ駆け出した。

 まんまと罠にかかった俺が追いかけて来たところを、あれは躰道たいどうの海老蹴りみたいな蹴り技なんだろう。

 沈み込んで床に手をつき後ろ蹴りで蹴り飛ばした。


 あれだと視界から消える。

 相手もこちらを警戒しながらゆっくり立ち上がって来たから、こちらもゆっくり立ち上がりながら思考をまとめる。


 相手がわざとゆっくり立ち上がったのは、おそらくこちらのダメージを測っているんだろう。

 いつでも飛び出せるように重心を真ん中に置いているのがわかる。


 普通暗闇ならここまで見えないし戦えない。

 俺の場合、全身鎧フルプレートの補正がかかり、暗視カメラ越しに見ているような視界になっている。

 相手はこんな場面に慣れているようだ。


 この手の敵は上下左右の動作のフェイクをよく使う――なら馬鹿しあいだ。

 

 と、右にずれてレオの寝室へ飛び出そうと意識して重心をずらすと、待っていたかのように手をついて蹴り足を繰り出してきた。


 それを小太刀ファルシオンで斬りつけると、素早く引いて反対の足で蹴飛ばして来やがった。

 頭がのけ反る。

 その隙に体勢を立て直し、右半身に構えて腰に手を回し、両刃のダガーを抜きやがった。


 小太刀ファルシオンが厚手の小太刀とすると、ダガーはギリシア文字のψプサイのようにつばが曲がった短剣だ。


 体術が得意なやつはこの鍔をうまく使って相手の武器を絡め取ってしまう。


「ほう……そうかね?」


 俺はニヤリと笑って見せた。(フェイスガード越しだけど)雰囲気だけは伝わるんじゃないかな?

 さいを使うなら俺も経験があるから相手の戦法がある程度は読める。


「来なさい」


 手のひらを上にしてチョイチョイと挑発して見せた。

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