第103話 不審な輩

 流れでレオとその弟ラエルの護衛を引き受けた俺。避難先での諸々の買い出しが終わると昼ごろになっていた。


「お姉、お腹すいた」


 弟のラエルと猫のブチャが絡みついて昼飯をねだっている。


「ちょっと待っててね。いま準備するから」

 と前掛けをつけて、買ったばかりの食材を抱え台所へ向かう姿はまるで小さいお母さんだ。


「レオ、俺が作ろうか?」

 少しでも休ませたいと声をかけるが


「護衛の仕事をしてて」と台所から声が戻ってくる。


 それならばと動き出した。

 二階に登り窓から周囲の様子を見渡し、職員から貸し出された地図と周辺のランドマークの位置を頭に叩き込んでいく。

 建物内の脱出経路の確認と、襲撃を受けた際に緊急事態を知らせる半鐘も点検を忘れない。


 ここら辺は洋画のサスペンスアクションに出てたから、これで良いんじゃないかな?


 つけられて監視されてないか二階からぐるりと見回して行くと、ふと不自然な動きをする男を見かけた。

 こちらの屋敷の前の道を右に左に往復しては、さりげなくあたりを見回している。


 なんだあいつ――?


「レオちょっと周りを巡回して来るな」

 と、一階したに降りて台所にいたレオに声をかけに行く。


「えぇ? もう少しでできるからすぐに戻ってよ」


 ああ、と言い残して外に出ると先ほどの怪しいやつのいたあたりへ急いだ。

 確か灰色のシャツに黒いズボン、ツバの長い黒い帽子をかぶっていたはずだ。通りに出るとあたりを見回すが愕然とする。


 そこら辺にそんな男が山ほどいたからだ。

 どうやらその服装がここらの標準スタンダードらしく、違いといえばややシャツの色が薄かったり帽子を被っていない程度だ。


『ウォー◯ーを探せ』のリアルバージョンと思って貰えば良い。

 戸惑いながらも武道の心得で、全体的にぼやっと視線を投げて怪しい動きをする者だけに意識を集めて行く。

 するとこちらの視線に気づいたのか、二、三人が歩速を早めた。


 気づかれないように、じわっとした感じで意識を集中させるとチラチラとこちらを見ながら遠ざかっていった。

 おそらく『観られてるぞ』の警告なんだろう。

 正体はわからないが、おそらくビルの手回しなんだろう。遠回しに警告してきやがった。


 こうやってプレッシャーを段々とかけて、こちらが動けば恫喝して来るつもりだ――と洋画のサスペンスファンの俺の勘が囁いている。


「やれるもんならやって見ろってんだ」


 遠ざかる不審者に今度は改めて殺気を放った。

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