第99話  告白

「なら、まずレオとその身内の安全を保障をしてくれ」


 レオの置き去りの件で聞き取りが始まると、まずはそれを要求した。


「それは話の内容次第だ。ミランダからある程度は聞いているが、被害者からの状況も聞かねば判断がつかん」

 とマーベルは答える。

 ここで彼は被害者、という言葉を使った。少なくとも置き去りにした者へ加担するつもりはない、と言外に言いたいんだろう。


「わかった。俺たちが最初に出会ったのは迷宮ダンジョンの第十層だ。これだけでビルがレオを見殺しにするつもりだった、というのは間違ってないよな?」


 猛獣区の奥地に子供を置き去りにするのと同じだ。

 魔物に襲われる恐怖をたっぷり味合わせ、身を守る武器も置いていかないのだから、その場で殺すよりもタチが悪い。


「その通りだ」


「なら話は早い。たまたま十層にいた俺はレオを見かけ保護したってわけだ。それから俺たちは――」


「待て待て、待て。ショーカン、十層だぞ? たまたま居れる場所じゃない」


 と、ツッコミが入る。

 ここで疑われればレオの証言も疑われる、と思った俺は素直に話すことにした。


「それなんだが、俺はニホン国の人間だ。

 地震が起こり白い光に包まれるといつのまにかそこに居た。信じられないだろうが俺自身もわけがわからないとこなんだ」


「ニホン国? 聞いたことがないな。そこから転移してきたってぇのか? 転移魔法は聞いたことがあるが、ここらで使える者など聞いたことがない」

 

 マーベルは眉間に皺を寄せてしばらく黙考していたが、

「まぁ良い、レオ。ビル・スメルゲイドから君が赤魔石を盗んだ、と届け出が出ている。

 君が水と食糧を奪い、逃げ出したから安全のために君を残してその場から離れた、とね」


「嘘だっ」

 思わず、と言った感じでレオが叫んでいた。

 

「酷いよ、酷いよ、よくもそんなことを――」

 と悔しさに唇を噛み締め、サファイア色の目からはポロポロと涙がこぼれ落ちた。


「レオ、落ち着け」

 と俺は彼女の背をさする。


「なぁ、マーベルさん。もしそれが本当ならわざわざ組合ギルドに出てくるわけがないだろ? それなら自力で戻れる階層にするはずだ」

 

 俺が弁護に回るとレオもせきを切ったように話し始めた。

 濡れ衣を着せられて殴られたこと、わずかな水と食糧を渡されて置き去りにされた事――俺が悪霊騎士リビングアーマーだったことは黙っていたが。


 やがて話終わるとマーベルはうーんと目をつぶり、太い腕を組んで沈黙した。

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