第96話 お約束のお約束ですが何か?

「よう、ミランダさんの連れだそうだな? 見かけねぇ顔だが、どこのもんだ」

 ゴリマッチョがニヤつきながら近づいて来る。


「そうだが? 気に障ったんなら謝る」

 と下手に出たら案の定。


「礼儀がなってねぇって言ってるんだ。普通ここでは、皆さん、お近づきの印に一杯どうですか? って酒代を出すもんだ」


 あたりを見回すとあちこちからそうだ、と言わんばかりの無言の頷きが帰ってくる。


「お互い仲良くやろうと言ってやるんだ。大人しく、ほれ」

 と手のひらを突き出して来るから、レオの方を見てそうなのか? と見るとレオは罰の悪そうな顔をして頭を下げた。


「ごめんなさい。私たち迷宮ダンジョンで遭難してお金持ってないの」

 と詫びる。


 なんなんだコイツら?

 酒代をこんな子供にも集るってかよ? 


 と、思ったら俺の中の悪い虫がうごめき始めた。それでも


「――と言うわけなんで。兄さん、許してもらえないか?」と紳士的に対応したつもりだ。

 だがゴリマッチョはこの流れに慣れているらしい。


「躾がなってねぇなぁ。そんなやからは――」


 と言いながらいきなり目を突いてきた。


「ぬ?」


 慌てて上体を反らすと反対の手で俺のキン◯マを鷲掴みにしようとしやがる。

 喧嘩屋の定番だ。

 咄嗟に体を捻って逸らすと腹を殴りにきたから、パチンとその手を弾いた。


「何しやがる?!」


 大声を出して誰かがこのゴリマッチョを止めてくれるのを期待していた。

 ところが回りは薄笑いを浮かべて野次馬根性丸出しで見てやがる。


 ゴリマッチョは手のひらを大袈裟に振りながら、

「おお、痛え。こりゃ治療費もいただがなきゃな」

 と白い歯を剥き出した。

 と、丸太のような右腕で殴りつけてきた。

 

 そうかい? その気なら仕方ないやな


 ダッキングしゃがみ込んでしてそれをかわすと、左手を突き出した。


「うをっ?!」


 と、のけぞったところを脇の下にタックルした。

 そのまま背面へ回り込んで袈裟懸けに締め上げる。ついでに両足を胴にまきつけて、後ろへ倒れ込む。

 柔道の裸締めだ。

 こうすることで助っ人が襲いかかって来てもゴリマッチョが盾になってくれる。


「てめぇっ離れやがれっ」

「殺すぞコラッ」


 案の定仲間たちが、俺を引き剥がそうと駆け寄って来るが、裸じめしたまま転がって蹴りを避ける。


 やがてゴリマッチョは「ぐうっ」と短い息を吐いてぐったりとなった。


「よーしっ、いま殺すと言ったやつ出てこいっ」


 ゴリマッチョを床に転がすと、俺はあたりを睨め付けた。

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