第95話 お約束ですか?

「領主のアルツール・スメルゲイド男爵は領民より金が大事なのよ」

 

 とレオから領主の悪評を聞きながら、諸々もろもろのことを考えている間に、俺たちの馬車は遠目からもわかる巨大な城壁に囲まれた都市に近づいていた。

 

「あれが迷宮都市タレントゥムスよ」


 ミランダが俺に教えながらポーチの中からカードと筒状に丸めた書面を取り出す。


「それは?」

「門に入る前に入管所に見せるの。組合の調査依頼だから最優先で通してもらえる」


 内窓を開けて御者に託すとミランダの言う通り、ろくに中を改めもせず通してくれた。


 ガラガラと石畳の中を馬車は進む。

 余裕で馬車がすれ違えるほどの大通りに面した街並みは、三階建ての石造りのアパルトメントが立ち並び一階にはやや寂れた商店が軒を並べているものの、道ゆく人の表情は暗くゴミがあちこちに散乱して荒んでいる。


「なんか……アレだな」

 言葉に迷っているとレオはここらはまだマシだ、という。


「領主が金をケチるから警護兵はゴロツキと変わらないし、冒険者崩れの悪党チンピラ彷徨うろついている。一筋裏にまわればすぐにスラム通りよ。ああ、早くこんな街から出て行きたい」


 聞き咎めたミランダが

「仮にも領軍の馬車の中よ、聞かれたらどうするの?」

 と、小声でいさめるとハッと気づいたようにうつむくレオ。

 

 その肩に優しく触れると俺は微笑んでみせた。

 この世界のことをあまりにも俺は知らないからこれくらいしかできなが、それでもミランダの小言が善意なのはわかる。


「俺だって散々愚痴は吐いて来た口だ。今度からこっそり教えてくれな」

 内緒だぜぇ、と笑いかけると罰の悪そうな顔でそっぽを向いた。


「組合に着いたぞ。降りろ」


 と御者を務めてくれた領兵が声をかけてくれた。

 馬車から降りると見上げるような石造りの組合の建物が、両開きの扉を広げている。


「私は組合長ギルドマスターと話してくるから、中で適当に待ってて」

 とミランダが身を翻すのを追いかけるように中に入っていく。


「この子たちは私の連れだから宜しくね」

 とたむろする強面の冒険者たちに声をかけながら、受付に近づくとギルドカードを出しながら依頼書を手渡し、受付嬢に伴われて二階へと消えて行った。


 それを待っていたように、ゴリマッチョなヘッドスキンがニヤつきながら近づいて来る。

「よう、ミランダさんの連れだそうだな? 見かけねぇ顔だが、どこのもんだ」


 お約束ですか?

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