第91話 リビングアーマー無双する

「ついてねぇなぁ」

 おい、撤収だ――と山師が声をかけた時だった。


 目の前の岩肌が崩れて、真っ黒な何かが出てきた。


 ギシギシと体を軋ませながら出てきたソイツは軽く2メートルはある。顔の真ん中に広い牙が生えた口が耳元まで避けていて、目も鼻もない。

 肩からニョッキリ頭が生えていて、丸太のような腕を引きずっている。全身真っ黒のゴリラみたいだ。


「アイアンゴーレムだぁっ!」


 さっきの山師が悲鳴をあげた。

 わーきゃーと年少冒険者くんたちがうるさい。


 ちっと舌打ちをするとミランダが魔術の構築を始めた。

「ショーカンさん、しばらくあいつらを引きつけて」

 魔法杖ワンドをかざして詠唱を続けている。


「ぬ? わかった。レオ、こいつ冒険者どもらを連れて下がらせていてくれ」

 

 うなずき離れていくレオを見送ると、そこらに転がる野球ボール大の岩を持ち上げた。


「とりゃっ」


 力任せに放った岩は、ガキャンッとアイアンゴーレムに跳ね返される。それでもダメージはあったようでドタドタ後退りすると、初めて俺を認識したようだ。


「ボォウッ」


 コントラバスみたいな咆哮を上げて両腕を広げて威嚇する。

 バカなのか? すぐに襲ってくればこちらも対処に困ったはずだ。試しにワンパン入れてみるか? と左手で順突きジャブを繰り出してみる。


 ボクシングのジャブとは違って空手の順突きジャブは距離を測るためじゃない。体ごと飛んで腕を放り投げるように突く。

 ステップインしてから発射された左腕には十分威力が乗っていた。乗ってはいたのだが――


 スパーンっと音がした。


『ボ』


 間抜けな音がして首から上が吹き飛んでいる。


「は?」

「「はぁ?」」

「「「はぁぁっ?!」」」


 アングリと口を開けている山師たち一同皆さん


 ガラガラと鉄塊になって崩れ去るアイアンゴーレムは、たちまち俺の空間収容イベントリ全自動オートで収容される。


 あれ? なんて思っている間もなく、崩れた壁から激しくクラクションを叩くような咆哮が響き渡った。


『『『パァァァ!!』』』


 新手のアイアンゴーレムだ。咆哮が洞窟に反響し暗くて何体いるかもわからない。


「うるせぇわっ!」


 と振るう左腕に軽く衝撃を感じるたびに


『ボ』


 と間抜けな音がすると、次々に鉄塊に変わり収容されていくアイアンゴーレムたち。

 やっと湧くのがおさまったから振り返って――

 

「意外ともろいんだな?」

 と、肩をすくめてみせた。


「「「んなワケねぇだろ!」」」


 山師どものツッコミにミランダを見て小首を傾げる。

 オゥフ、俺氏なんかやっちゃいましたか?

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