第90話 インシデント発生

『アイテムをコンプリートしました。全てのアイテムをアップグレードします』

 

 今まで聞いたことのないアナウンスがながれ異変が起こった。それは俺自身の進化だったのか力が溢れてくる。

 と、同時にぐるぐると盛大に腹が鳴った。人間に戻れた。なら当然腹も減る。

 そんな当たり前のことが嬉しくて。

 

「――とても良い気分なんだ。とっととこの迷宮ダンジョンを出ようぜ? なんだか腹が減って仕方ねぇ」

 

「まったく――」

 呆れるミランダと、物申したそうなレオ。

 

「急ごう」

 と促すと気持ちは同じらしく歩速を上げる。

 次から次に湧いてくるゴブリンと、時々一角兎ホーンラビットを狩りながら第二層にたどり着いた。


 ――――第二層は鉱山のフィールドで。

 

 浅い階層だけに出るのは石炭や岩塩、たまに金が出るんだそうだ。

 坑道の中のようで岩肌を削って所々ランプが置かれ、そのか細い灯の下で年少の冒険者たちがノミを振るっている。

 その周りを4人の強面こわおもての冒険者が辺りを警戒していた。


「お疲れ様」

 ミランダが軽く手を上げ挨拶をすると、おぅと答えた後に二度見して、慌てて腰を折ってくる。


「精が出るわね。残念だけど事案インシデントが発生したわ。これから冒険者組合に報告に行くけど貴方達も早く引き上げた方が良い」


「マジっすか? まだ俺ら岩塩しか掘り出してないっすよ。こいつらに賃金を払ったら赤字だぁ」


 と採掘をしている年少の冒険者たちを顎で示す。反発はしないが不満げではある。


「どうするかは貴方たちの勝手だけど、階層異常が各層で発生している。

 その子たちを連れて逃げ切れるなら文句は言わないけど、見捨てたら組合は貴方達からの買い取りを拒否するわよ」


「ちっ、まったくついてねぇな――ミランダさん、ちょっと見てて貰えませんかね? 石炭を一俵掘り出す間で良いんで」


「護衛料をもらうわよ」


「ヤダなぁ、『共助の情け』ってやつでしばらく見てて下さればってだけでして」

 へへへっと卑屈な笑いを浮かべる。要は労働をタダで利用しようとしている輩だ。

 冒険者の中でも『山師』と呼ばれる連中だそうで、連中の持ち出した『共助の情け』とは高ランク冒険者は下のランクの冒険者を助ける不文律暗黙のルールのこと――とレオが教えてくれた。

 


「警告はしたわよ。事案インシデントの報告が『共助の情け』より優先されるのはわかるわよね。先に行くわよ」


「ついてねぇなぁ」

 おい、撤収だ――と声をかけた時だった。


 目の前の岩肌が崩れて、真っ黒な何かが出てきた。

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