第89話 リビングアーマー人間になる

 亡霊たちの無念を晴らし第四層の洞窟全体が浄化された、俺たちは第三層めがけて歩き出した。


 ――――第三層に入ると。


『レベルアップしました。進化しますか?』


 いきなり頭の中でアナウンスが響き渡った。グラグラと眩暈めまいが襲ってくる。

 急に始まったのはレオが第三層に入って安心したからかも知れないし、四層の浄化の影響もあるかのも知れない。

 

『アイテムの選択をしてください』


 謎の声が頭の中で響き目の端にチカチカと点滅するアイコンが現れて、左から右へと文字を紡いでいく。


『◯左足

 ◯――

 ――――――――』

 あとは左足を残すのみ。

 これでやっと人間に戻れる――万感の思いが込み上げてくる。


「ショーカンどうしたの?」


「ん? ああ、進化出来るらしい」


 思えば魔物マイナスからのスタートだった。

 せめて人間に転生してたらこんな苦労はしなかったろうが、出会いに恵まれたと思えば幸運ラッキーだったとも思える。


「ポチッとな!」


 下腹部から寝巻きのズボンを無理に履いたように、引っかかりながら足が生えてくる。

 ガチャガチャと音がして足の裏に大地の硬さを感じた。

 

「ああ……やっと人間に戻れた」


 フェイスガードを上げて見回すと、夜明けの草原のようなフィールドが広がっている。


『アイテムをコンプリートしました。全てのアイテムをアップグレードします』


 ん? 聞き慣れないアナウンスなんだが?

 ぐりぐりと全身に熱が這い回る。

 

「ぐうっ」


 バクンバクンと心音が高鳴り思わず胸を押さえた。

 心筋梗塞? なったことがないからわからないが頑強な体だったから油断してた。


「ショーカン? ショーカン?!」


 レオが俺の異変に気づき駆け寄ってくるが手で制するのがやっとだ。


「ミランダさん、ショーカンがおかしい」

「ええ。今回復魔法ヒールをかけるから待ってて」


 ミランダの焦る声が聞こえる。

「ぬぉ……」

 いつもより熱い吐息が口から溢れた。血管という血管がドクドクと脈打ってる。


 と、不意に全ての痛みがおさまった。

 鼻から新鮮な空気が流れ込んでくる。先ほどとは打って変わり全身に力が満ち溢れている。


 ふぅと息をつくと2人の不安そうな顔が目に飛び込んできた。


「大丈夫なのショーカン?」


「ん? あぁ大丈夫みたいだ。今は凄く気分が良い」


 ミランダが近過ぎ魔力の流れを診ている。

回復魔法ヒールは――要らなそうね」


 人間に戻れた。なら当然腹も減る。


「――とても良い気分なんだ。とっととこの迷宮ダンジョンを出ようぜ? なんだか腹が減って仕方ねぇ」

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