第85話 ニヤつく下衆に一撃

 ジル・ド・ラヴァルと名乗る男が四層を抜けようとする俺たちの前に立ち塞がる。この迷宮ダンジョンをマタイオス教帝から与えられた伯爵だなんて言ってやがる。


 なんか国家規模のやばいヤツなんですが?


「は? 貴方寝ぼけているの? 例え脅威度100と言われる貴方でも一生残る怪我するわよ」


 強気な発言とは裏腹にミランダは後ろ手で逃げろ、とてのひらをパタパタさせている。

 一生残る怪我とは言ったが返り討ちにするとは言ってない。

 眷属を一撃で火だるまにできるミランダでさえ、叶わないから逃げろと暗に伝えたいのか?


「おお美しきお嬢さん、貴方の勇敢さに敬意を示そう。どうやら大きな誤解をしているようだ。たが私の大いなる愛を知ればそれも解けることだろう」


「へぇ、200を超える子供をさらい100の女の腹を裂いた悪魔が愛を語る? ふざけないで欲しいわ。貴方は女の敵で人類の敵よ」


 ジル伯爵を罵りながら、こちらに早く行けと厳しい顔を向けた。

 そんな隙を見せても、芝居がかった仕草でやれやれと両手を広げて見せるジル伯爵。


「無理解とは悲しいことだね。確かに200の素材を黒魔術に使ったよ。たまたま子供の無垢な魂が必要だったからね。 

 だがそいつらは孤児として明日をも知れぬ者ばかりだ。家の存続とはなんら関係しない。

 そして加工した魂を母体となる娼婦に植え付けた」

 

 あぁ言い忘れたけどね、と付け加える。

 

「神の教えに背く金で体を穢す者ばかりだ。天罰だったのかな?

 結果的に植え付けた種が成長して母体を食い破って出て来たのだから、世間が言うように私が裂いたわけじゃない――私は女性には優しいからね」

 ふふふっと悦にいったように話し続ける。


「だがそれは完全なる生命体を生み出すための尊い犠牲だ。もし実験が完成したなら、人類は怪我や病気から解放され永遠の命すら手にできただろうに――分からず屋どもが寄ってたかって――」


 広げた手を悩ましげに顔にあて、あるいは身をかき抱くように肩に回す。


「どうだい、世間に伝わる私の印象とはだいぶ違うだろう? 眷属となれば君らにも完全なる生命を与えてやろうじゃないか?」


 ここまで話して断ることはないだろう、と言わんばかりの口ぶりに悪魔怖いものに怯える本能が鎮火し、俺の中の何かがブチ切れた。


「黙れクソ野郎っ! テメェがやったことは弱者の虐殺だっ。反吐へどが出らぁ」


 一足飛びに飛び込んでニヤケ面に拳をぶち込んだ。

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