第84話  国家規模のやばいヤツ

 第四層の洞窟で出会った男は救助を求めて来たのだが、両掌で顔を覆い隠したかと思うと爪が鉤爪に変わり、飛びかかって来た顔は口が耳元まで裂けていた。


「きゃぁぁ――っ」


 俺は悲鳴をあげた。

 お、お口がっ! お口が耳元まで裂けてるんですものっ。しかも犬歯が牙みたいに伸びてるしぃぃ――っ。


「『爆炎バースト』!」

 ミランダの声が響き男は炎に包まれた。


「ギャァァァァ――ッ」


 洞窟に男の悲鳴が響き渡る。

 生きながら松明たいまつと化した男が、転げ回りながら火を消そうと必死にもがいている。


「無駄よ。魔力の炎はこちらが魔法を解くまで焼き尽くす」


 やがて動かなくなるまでじっと見ていたミランダが、ロウソクの火を消すようにてのひらを振るうと炎が消えた。


「貴方、吸血鬼バンパイヤの眷属ね。主はどこ?」


 冷たい目で見下ろしている。

「い、言ったところで殺す気だろうが?!」


 焼けただれた顔で目だけをギラギラとさせている。


「もちろん教えてくれるなら『浄化』ですぐに楽にしてあげる。言わないのなら何度でも焼く」


 怖えぇぇ――ミランダが容赦なくて怖えぇ。


「ぐぞぉ……っ」


 怨嗟えんさをこめた目で睨んでいたが、心が折れたようだ。


 主は……と言いかけた時ソイツの首が弾け飛んだ。


「ふぅ……これだから人間の眷属は当てにならない。ちゃんと分け前も上げるって言ってるのにねぇ」

 

 偉そうな気障きざったらしい声がする。

 洞窟の奥から光が沸き立つと、その光を背景に長身の男が靴音を響かせて近づいて来た。


「初めまして、お嬢様がた。そして半端者のリビングアーマー。私の別邸へようこそ」


 松明たいまつの炎に照らされてその姿があらわになる。歳の頃は30代前半か? 面長のえらく整った顔立ちに、長身に似合う黒ずくめのタキシードをまとっている。

 まるで映画に出てくるドラキュラじゃねぇか?


「まさかこんな階層に出てくるとはね。15層のバケモノがなんのつもり?」


「バケモノとは酷い言われようだ。私にはジル・ド・ラヴァルという名前がある。ジル伯爵と呼んで欲しいね。ちゃんとコンスタンティ皇国の伯爵家に列せられているよ」


「まさか堕ちた英雄が迷宮ダンジョンに潜んでいるとはね――マタイオス教帝に知れれば一族極刑よ」


「その心配はないよ。なにしろこの迷宮ダンジョンを与えて下さったのは、マタイオス教帝なんだからね――それに君らは私の眷属になるのだから」


 なんか国家規模のやばいヤツなんですが?

 

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