第82話 早く人間になりたい

 ミランダからレオは魔法の概要を学び、第四層の安全地帯セーフティーゾーンで一夜を明かした。


――――ショーカン目線です。


 目が覚めると頭の中でアナウンスが響き渡った。いつものようにグラグラと眩暈めまいが襲ってくる。


『レベルアップしました。進化しますか?』


 謎の声が頭の中で響き目の端にチカチカと点滅するアイコンが現れて、左から右へと文字を紡いでいく。


『アイテムの選択をしてください。

 ◯右足

 ◯左足

 ◯――

 ――――――――』

 あとは両脚を残すのみか。

 どっちでも良いが、ここは利き足の右脚で――

「ポチッとな!」


 下腹部から寝巻きのズボンを無理に履いたように、引っかかりながら足が生えてくる。

 ガチャガチャと音がしたから一角兎ホーンラビットの毛皮を布団にして、横になっていたミランダとレオが起きて来た。


「ショーカン、進化したんだね」

 レオが少し眠そうな顔で聞いて来た。


「ああ、ありがとうな」


 レオは得意げにへへんっと胸を逸らし

「実は眠る前にショーカンが早く人間に戻れますようにってお祈りしといてあげたんだよ」

 と、まるで私のおかげと言わんばかりだ。


 俺のために祈る――それだけ信頼を得たわけで目が覚めたら進化が始まったのも頷ける。


「なんで祈ってくれたんだい?」

 

「ショーカンのおかげで魔法を教わることができるようになったんだもの。幸運はお裾分けしとかなきゃね」


「ついでかよ。にしても恩に切る」


 俺が嬉しそうに微笑むのを見て、ミランダが興味深そうに見ている。

 

「魔力の揺らぎが変わったわね。魔物が進化して人間になるところなんて初めて見たわ」


 魔物と人間の違いは魔力の流れでもわかるのだそうだ。俺の場合、人間のそれとほとんど変わらなくなっているんだとか。


「レオちゃんとショーカンさんの魔法絆バイパスも太くなっているし――テイムとも違う何か、が貴方たちにはあるようね。

 こんなこと学会が知ったら驚天動地きょうてんどうちの大騒ぎよ――もちろん言わないけど」


 どうも魔道士とは学者も兼ねることが多いらしい。だが学者目線で見てしまったのに気づいたのか


「ショーカンさん、貴方を魔物だなんてごめんなさい。失礼したわ」

 なんて気を遣ってくれる。


 構わねぇよ、と手をヒラヒラすると

「第四層もあと少しなんだろ? そろそろ行かないか? ミランダリーダー」

 とせっついた。


 亡霊系はごめん被りたいところだが、どうやら俺はこの冒険が気に入ってるようだ。

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