第74話 リビングアーマー失神する

 正面からアンデット。後ろからは灰色の霞のような亡霊が近づいて来る。

 在庫システムで『浄化』に役にたつ物に変換できないか?

 浄化、浄化――と念じていると、目の端にカーソルが点滅し始めた。


 カーソルが左から右へ走り始め、文字を紡いで行く。


『◯オーガ素材▼

 ◯オーガの肉……滋養のある肉。回復力アップ(中)

 ◯オーガの角……霊的な素材。呪物に最適

 ◯オーガの皮……丈夫な皮。皮鎧に最適

 ――――――――――』


 さすがにねぇかぁ……と、諦めかけた時。

 オーガの角が霊的な素材と書かれているのが目についた。

 これをさらに変換できないか?

 ダメで元々だ、浄化する水。けがれれを祓う『浄化の水』へ――と念じていると


『オーガの角を変換しますか?』


『オーガの角▼

 ◯浄化水……穢れを祓い清める

 ◯降霊水……霊が乗り移り交信できる

 ◯言霊水……言葉に霊的な力を与える』



「これだぁ、ポチッとな」

 とポチろうとした時、レオが俺の背を押した。

「ショーカンッ、早く逃げてっ」


「うわぁっ」


『言霊水に変換します』


 なんですとぉ?!

 見れば言霊水の◯に✔︎が入り、ショルダーパッドの胸部が少し開いてミストが噴き出す。


「「やっちまったな」」

「ショーカン? どうしたの?!」


「「「気にすんな。些細なことだ」」」

 滂沱ぼうだの涙を流す俺の声が木霊している。


『やめろ――やめろ――貴様の声は……』

 灰色のかすみの顔が歪み白目をきはじめた。

『やめろ――やめろぉぉ!』


 絶叫とともに巨大な口を広げて襲いかかって来た。

 

 怖えぇよ! ――なんでこんな目に遭うのぉ?!

 亡霊とかアンデッドなんてみんな嘘だぁ、消えちゃえぇぇぇ!

 

 もう俺の恐怖メーターは振り切れまともな理性は彼方に飛んでいった。


「「「「ひぃぃぃぃぃ――っ、き、消えろぉ……おぉんおぅおぅ……」」」」


 俺の声は石造りの回廊の天井や壁に跳ね返り、絡み合って反響し合いながら、まるでそれ自体が魔物のようにうねり広がって行く。

 

『ギャァァァァ――ッ』


 あちこちで上がる亡霊たちの悲鳴。

 この世の物とも思えぬ地の底から湧き上がる悲鳴に、俺の悲鳴が重なり合う。


「「「ンギャァァァァ――ぁんぁんぁんぁん……」」」


『ぶばぁ』

『げひぃ』


「「「嫌ぁ……ん、ぁん、ぁん」」」

『『『ギェェェ――ッ』』』


 あちこちから悲鳴が沸き起こる。

 そこここでパンッパンッ、とラップ音が響きわたり――俺は白目を剥いて失神した。

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