第71話 浄化魔法

「さぁ、そろそろ第四層ね」


 魔法杖ワンドで指す先に扉があった。

 扉を抜けると石造りの回廊が広がっていて、石壁の両側から松明たいまつが音もなく煌々と足下を照らしている。


「雰囲気あるな」


 辺りを油断なく見回して、後ろから続くレオとミランダに合図した。


 後から入ってきたレオが上着の右襟からA4ほどの地図を取り出すと

「第四層は城のフィールドなの」

 と解説してくれる。


「ここで出るのは亡者系の魔物ね。アンテッドやスケルトンが中心で脅威度2から3ってところ」


 亡者系……とな?

 50話でも触れたが俺はホラーはダメな人だ。

 霊魂の存在を信じるか? と問われれば、やめろぉっと泣きながら殴りかかるタイプだ。

 

 ――嗚呼、足が進まねぇ。

 俺の体と心が進む事を拒否している。


「ショーカンさん、どうしたの?」

 ミランダが最後尾から声をかけてくる。


 レオが呆れ気味に

「ショーカンはお化けが怖いんだって」

 と揶揄からかいやがる。


 やめろぉ――俺だってプライドがあるんだよ。特に美女に蔑まれるのは我慢できない。

 でも……怖いものは怖いんだよ!

 

 俺の心の叫びはあっさり無視されて、

「確かにアンデット系は『浄化』ができないと厄介よね」

 とミランダが最後尾から「交代するわ」と入って来た。


 何?! いま『浄化』とか言わなかったか?


「なぁ、『浄化』ってなんだ?」


 ミランダは俺を追い越しながらふふふっと笑った。

 貴方が亡霊系が怖いって――と言いながらクスクス笑ってる。


「亡霊系ってね。悪素――魔素の劣化したものの集まりみたいなものよ。それを『正の魔素を凝縮した魔力』をぶつけて中和するのが『浄化』なの」


 それを一般的に白魔法って言うんだけど……と正面が灰色の霞が湧き起こるのを見ながら言う。


「ほら、あんな風にね」


 とチラリとこちらを見て微笑む。

「見てらっしゃい、これが『浄化』よ」

 と魔法杖ワンドをくるりと回した。魔法杖ワンドの先からキラキラと光が溢れてくる。

 光が十分に魔法杖ワンドにまとわりつくと、それを押しやるように振るった。


『グゲゲゲェ――ッ』


 霞のような物が目と口が浮かび出て奇怪な声を上げながら近づいて来た時、魔法杖ワンドから伸びた光の帯がそれを包み込んでいく。


『グガァァ――ッ』


 光と灰色の霞がもつれ合い、渦となって混じり合っていくとパンッと弾けて消えた。


「……とまぁ、こんな物だけど」

 と胸を逸らし振り返るミランダ。


「なぁ……その魔法――教えてくれぃ」

 俺は迷うことなくその場に土下座した。

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