第70話 第四層の入り口にて

「あ――言いそびれてたんだが、レオが10層に置き去りにされて俺たちは偶然そこで出会って……」


「10層に置き去り?!」


 ミランダのまなじりが釣り上がった。


「置き去りにしたパーティーランクは?」

「Dだったと思う」


 レオの答えにミランダが天を仰いだ。

「決定的なバカどもね――」

 しばらく黙考していたが、不振げな俺たちの視線に気がついたのか

「詳しい話は次の安全地帯セーフティーゾーンで聞くわ。急ぎましょう」

 と俺の後ろへまわる。


「なんで俺の後ろへ回る?」

 

「あなた盾役でしょう? 魔物が出て来たら時間を稼いで。私が殿しんがりを勤めるわ。見習いのレオちゃんを真ん中にしたほうが生き残る確率が上がる」


 いかにも手慣れた口調で言うから、なんとなくそうなんだろうと歩き始めた。


――――忘れていたことなんだが。

 

『ここは第五層で幻穴とも言われるくらい、幻の世界が広がっている。だから目の前の風景が本物なのかわからないよ』

 とレオが言ってた通り、目の前が炎の壁に阻まれている。それが幻影ならば問題ないが熱波も伴ってくると判断に困る。


「なぁ、これ本物じゃねぇの?」


「幻影よ。あの炎の中に薪みたいの物が見えるでしょう? 丸太くらいの薪ってあんな燃え方はしないでしょう?」


 ミランダが事もなげにしないでしょう? って言うけれどもそこまで焚き火に慣れてるわけじゃない。

 どうなの? とレオに目を向けると、


「幻影って実際にどこかで起こったことを映し出しているだけなの。だからよく見れば不自然なところがある。問題はなぜ幻影を見せるかと言うと――」


「敵が近づいているってことね」

 とミランダが補足する。

 

「例えば――」

 と振り返り腰から魔法杖ワンドを抜いて振り抜いた。

 

「こんなふうに」

 その先から風が巻き起こり、刃となって何かを切り裂く。ドサリと落ちたそれは丸太ほどもある大蛇だった。


「この層にしては厄介な魔物ね。幻影を見せてパニックになった獲物を丸呑みしてくる。でも幻影を見抜ければそこまで厄介でもない」


 ほぇ――さすがBランク冒険者ってところか? コイツも結構やばいんじゃねぇの?

 肉と皮に変わったゲンジャをポーチに仕舞うと、さぁ行ってと先を促す。


「それってマジックポーチ?」

 レオが目を輝かすが

「装備の事は聞かないのがマナー。警戒されても仕方ないわよ」


 と諭されてシュンとしてる。


「さぁ、そろそろ第四層ね」


 魔法杖ワンドで指す先に扉があった。

 

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