第69話 ミランダ・マレーの疑問

「取り残された? 貴方を置き去りにしたパーティーがいるってこと?」


 ミランダが軽く美眉を寄せた。

 

「ああ、ひでぇ話だろ? こんな子を置き去りだぜ? 信じられないだろ?」

 これまでの鬱憤が溜まっていたのか、つい見ず知らずのミランダに溢してしまった。


「ちょっと込み入った事情があるみたいね。次の安全地帯セーフティーゾーンで詳しく聞いて良いかしら?」

 と身を翻した。


「待って、ミランダさん。他のパーティーメンバーはいないの?」

 レオが警戒の色を見せている。

 俺も迂闊だったがこんな迷宮ダンジョンを一人でくる者などいないだろう。にも関わらず一人でいるのは仲間達とはぐれたか、もしかすると追い剥ぎのおとり役かも知れない。


 親切面で近づいて素材を奪っていく――みたいな?


「コカトリスにやられたわ。遭遇した時に斥候が一人、盾役の一人は私を庇って目の前で喰われた。剣士、槍士も二人いたけど逃げている間に――」

 と喉を詰まらせて沈黙する。


「さっきみたいな大魔法をなぜ使わなかったの? おかしくない?」

 レオの警戒する視線に、ミランダはしばらく目をしばたたかせていたが、呆れたようにレオを見返した。


「あなた魔法は素人ね? 発動するためにはタメが必要なの。その時間稼ぎをしてくれる盾士と剣士がいない以上、私は逃げるしかなかった。

 もしかして吟遊詩人の歌う『無詠唱の即発魔法』って思ってた?」


「そう……だったんだ。私、冒険者ランクどころかまだ見習いでしかないから」


 ポツリとささやくように詫びるレオに、ミランダが驚いたように目を見開いた。


「妙に戦闘に慣れていたから、Eランクはあるって思ってたけど。魔素斑まそはんもあるじゃない?」


 レオの額に浮かび上がった緑色の魔素斑まそはんに目が注がれている。


魔素斑まそはんって魔臓器があるってことだろ? なんでそれで冒険者ランクまで推測できる?」

 ふとした疑問を呈すると


「濃い魔素に晒され続けなければ魔素斑まそはんは出来ない。それだけ激戦を潜り抜けて来たって証拠よ。

 そんなことも知らないなんて貴方どこの所属?」

 今度はミランダがこちらを警戒し始めた。

 コカトリス? からの襲撃を凌いで少しずつ冷静になってきたのだろう。

 こんなところに見習いと全身鎧男フルプレートが二人でいること自体、不自然なのかも知れない。


「あ――言いそびれてたんだが、レオが10層に置き去りにされた時、俺たちは偶然そこで出会って……」


「10層に置き去り?!」


 ミランダのまなじりが釣り上がった。

 

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