第65話 あまり嬉しくない邂逅に戸惑うリビングアーマー

 一番遠回りだが、一番危険の少ない森の外周を回る道を歩いていると、遠くで絹を裂くような悲鳴が聞こえた気がした。


「レオ、誰か襲われているんじゃないか?」


「……そのようだね」

 しばらく耳を澄ませていたレオが険しい顔で見返してきた。


「この辺の魔物は脅威度どれくらいだ?」


「第5層の魔物なんて脅威度3から4ってところだよ。だからDランクの冒険者たちはパーティーを組んで、良い狩場にしてるって話――だから他にも(冒険者が)いるはずだよ。きっと大丈夫だよ」


 かも知れないが誰もいないとすれば? もしくはこれまでみたいに、階層に見合わない魔物が紛れ込んだとか。

 なんとも心がざわつくが、どの道ここから引き返しても声の主を救助するのは時間的に難しい。


「どうする? レオ、助けに行くか?」

 一応この世界の常識的な判断もわからないから聞いてみる。

 

「……いや。あの声はかなり遠かった。今から行っても間に合わないと思うけど――」


 そうなるよな……。

 

 これだけ聞けば非情な判断だと思うかも知れないが、仮に現代で遠くで通り魔が現れたとして――避難して自分の身の安全を図るのが最善だ。

 それが間違いと言い切れる人ほど、他人事マスコミだったりするのはいやってほど見てきたわけで。

 それでも見殺しにするのはあまりに気が咎める気がして。


「ちょっと様子を見に行かないか?」

 と煽ってみる。

「ダメだよ。いくらショーカンだってやられるかも知れない」


 葛藤してるのだろう。彼女だって誰の助けも届かない迷宮ダンジョンの地の底、第10層に置き去りにされたんだ。

 助けられるのなら手を差し伸べたいに決まってる。


「そうか……俺は甘っちょろいようだ。ここは巻き込まれないように先を急ごう」


 と迷いを断ち切るように歩を進めようとすると、今度ははっきりと悲鳴が聞こえた。しかも段々と近づいてきている気がする。


「レオ?!」

「ん!」


 素早く目配せを交わし空間収容イベントリから、手盾バックラーとバスターソードを顕現させ、レオをかばうように気配の方へ身構えた。


 バサバサと下草を掻き分ける音と、バキバキと木々をなぎぎ倒す音が聞こえると、目の前に黒いローブの塊が飛び出してきた。

 それを追うように丸太ほどもあるくちばしがバクンッと横切る。


「ひぃぃぃぃぃっ」


 転がるように逃げ出す黒ローブの人と、突き出した嘴の後から出てきた巨大な頭。

 軽く人を丸呑みできるくらいはある。


「あ――」


 バッチリ目があったんですが。

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