第64話 偽りの世界

 岩山にぽっかりと口を開けた第5層への入り口から、3人が横並びで歩けるくらいのトンネルを抜けて行くと、外の昼間と見紛みまごうくらいの明るさの中に森が広がっている。


「おい……本当にここ迷宮ダンジョンなんだよな?」


「第五層は幻穴とも言われるくらい、幻の世界が広がっているんだ。だから目の前の風景が本物なのかわからないよ」


「へぇ――俺には普通の森にしか見えないけどな?」


 迷宮ダンジョンの作り出した偽りの世界を見回す。

 ピューピューと吹き抜ける風と少し弱い日差し。

 その明るさの光源を辿ってみれば、幾つもの光る玉が浮いていてそれが太陽の役割を果たしているみたいだ。

 風が吹き抜けて遠くに見える迷宮ダンジョンの岩穴に吸い込まれ、ピューと不気味な音を立てている。


 レオは上着の裏地から地図を取り出し、しばらく睨んでいたが

「森を抜ける道は3本ある。この道を抜けて左の獣道みたいなところが一番危険だけど最短。次に出口に近いのはあの――」と手にした槍の柄で音を立て続けている岩穴を指す。

「あの風穴は距離は近いけど見えない魔物が襲ってくる。その上吸い込まれる風に巻き込まれて戻って来た人はいない」


「そして最も距離は遠いけど、安全なのは森の外周をくるっと回って抜けて行くコース。私はこのコースで行こうと思ってる」


 それで良い? と地図を突き出して聞いてくるから、

「いや、問題ない。ここのところ階層に関係なく強敵に襲われていたからな。ここは安全策で行こう」


 とフェイスガードを開けてうなずいた。

 

「これから先は割と他の冒険者もいるから、見つけたら外の様子も聞いてみよう」


 置き去りにされてもうだいぶ時間が過ぎた。

 あれから何日経っているか、外でのレオの扱いも知りたい。もし冒険者組合に死亡認定されて除籍になっていたら、籍の復活にも素材の買い取りにも時間がかかる。


「じゃあ、行くか」


 と森の外周を回る道へ歩き始めた。


 ――――時折襲ってくる一角兎ホーンラビットを仕留めながら歩いていると。

 

「ここのコースには危険地帯ホットスポットもない代わりに、安全地帯セーフティーゾーンもない。歩きっぱなしになるからね」


 ふぅん、そうなんだと後ろから解説をしてくれる声を聞いていると、遠くで絹を裂くような悲鳴が聞こえた気がした。


「レオ、誰か襲われているんじゃないか?」

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