第61話 レオの夢

 覆った手を退けると額には扇形に広がる笹の葉のようなあざが浮かび上がっている。

 

「レオ、額に妙な模様ってのかな? 笹の葉みたいなあざがある。俺はこんなのは初めて見るんだが心当たりは?」


魔素斑まそはんかも知れない……普通ないんだけど」


 おおそれって『第三の目サードアイ』!?

『右目が疼く……』とか? それとも聖痕せいこんとか? 俺の厨二心が騒ぎ出す。

 

「レオ、その魔素斑まそはんって?」

 キラキラの眼で問い返すと


「魔素が貯まった証さ。魔物に魔石があるだろう? あれと同じで、人間も魔素にさらされ続けると肺や心臓の一部が肥大した器ができて、核ができる。

 そこに魔素が貯まって魔石になるんだけど――つまり魔法を使える準備ができたってこと」

 と少し困ったような顔で答えてくれた。


 そこに違和感を覚える。

 蒙古斑もうこはんみたいな一過性のものならば成長の証だ。なのになぜ困ったような表情になる?

 

 器って……腫瘍しゅようじゃないよね?

 魔素を貯め込むと器ができるってのは、魔素が放射線のようなもので、現代医学的にみて悪性腫瘍ガンだったりしないのか。


 ――やばいんじゃねぇの?


「なぁ……それって、肥大化するとどうなるんだ?」

 心配になって尋ねてみる。

 

「ん? 魔法の威力が上がったり、継続時間が長くなったりするらしいけど。私もわかんない」


「さっき普通ない――とか言ってたけど?」


「普通はこんな短期間で魔素斑まそはんはでないよ。運び屋ポーターを3年続けて、魔素を貯めつつ、魔法の錬成を見て学ぶ。その錬成を続けて5年かけてやっと浮かび上がるのが魔素斑まそはんさ」


「錬成って?」

「魔素の凝縮の仕方。魔法を使うためには魔素を凝縮させる錬成をしなくちゃならないし、イメージ通りに顕現けんげんさせる術式が必要なんだ。

 それが魔術で、顕現けんげんしたものを魔法って言うんだけど――」


 なら魔素が貯まったサインが魔素斑まそはんで、あとは錬成と術式を覚えたら魔法使いになれるんじゃね?


「そう、だから魔法使いって凄いんだ。魔素を貯める狩りをしながら錬成を欠かさず、何百とある術式を覚えて魔法を発揮できるんだからね」


 だんだんこの世界での魔道士の立ち位置がわかって来た。術達者スペシャリストなんだ。あるいは職人と言い換えても良い。

 何年も術を学び磨き上げて、初めて認められる存在。

 だから当然、絶対数が少なく社会的に認められるのもそのまた一部。


「なぁ、レオ。その魔道士ってのが、レオの夢なのかい?」


 しばらくポカンとしていたがコクリと少女は頷いた。

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