第60話 レオの進化

 サーベルタイガーの引き手に合わせて飛び込んだ。

 目の前には俺の半身ごと飲み込みそうな大きな口と、そこに居並ぶ鋭い牙が。


「ぬんッ」


 そこへ向かってバスターソードを突き入れた。

 腹と背にバクンッと衝撃を感じる。

 だがそれ以上そのあぎとが俺の体を引き裂くことはできなかった。

 鋭い牙の奥の方、ちょうど奥歯のあたりに左手のバックラーをねじ込み、右手のバスターソードでヤツの喉を貫通して小脳まで破壊していたからだ。


 ブルリッと身を震わすと魔素を吐き散らしながら、サーベルタイガーは皮と肉、牙と鉤爪を残し消えた。


「ふいぃ――っ」


 空間収納イベントリにその素材も収容されてると、目の前には草原の中を抜ける一本道が見えてくる。


「ショーカン、大丈夫?」

 槍を片手にレオが駆け寄って来た。

「飲み込まれたと思ったよ、怪我ない?」


「問題ない。この通りだ」

 

 と振り返り両手を広げて見せる。

 興奮が去って両膝がガクガクいいそうになるのを、必死に押さえ込みながら、フェイスガードの止金を外し顔を晒して見せた。


「なんの問題もないぞ」


 ニヤリと笑って見せようとして失敗する。

 やばかったお――スっごくヤバかったおっ!?

 両前脚が上がったのを見て、腹を突くつもりだったけど、それがあんなにお口が開くなんて思ってなかったおっ!?


 初めての猛獣戦で内心泣きそうだったおっ。


「ま、まぁなんだ。少々手強かったがな」


 強がって肩をすくめた。

 これ以上、みっともねぇ顔を見せたくなくてフェイスガードを下ろし、右手の手の甲で顎に押し込むとパチリと固定する。


「確かサーベルタイガーって脅威度50だよ。ひょっとしたらここのフィールドボスだったかもね」


 なんだよそれ? 下の奴らより強くなってるじゃねぇかよ?


「意味わかんねぇわ」

「普通は『貢ぎ物みつぎもの』って肉を囮に逃げるんだけどね。撃破したの初めてだと思うけど」


 早く言ってくれ……。


 ――――丘を越えると安全地帯セーフティーゾーンに出た。

 レオの水筒に回復水を補填してやり、俺は指先からちょうど蛇口から水を飲むように飲んでいる。


「あれ? あれ?」

 と声を上げるレオにどうした? と目を向けると何やら額を抑えている。


「痛っ」

「どうした?」

「額が痛いの」


 さっきので石かなんかが飛んで来て負傷したか?

 

「レオ手を除けてせてみろ」

 

 覆った手を退けると額には扇形に広がる笹の葉のようなあざが浮かび上がっている。

 

 これって『異世界あるある』なん?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る