第57話  フランス人形とリビングアーマー

 妖怪の巣食う『宿屋』を抜けなければ第6層に戻れない。なのに逆さ吊り女やのっぺらぼうのレオ。血まみれ包丁を手に襲ってくる小さいオッさんとか?

 怖すぎて一旦『宿屋』の外にまで逃げて来た。


 もう一度ここに入って第6層へ行く自信はない。

 俺はその手がダメな人だ。


 人智を超えた存在にどうしろと?

 戦えるはずがない――だが弱点はあるはずだ。

 ドラキュラと言えば日光と十字架とニンニクみたいな。

 幽霊と言えば? お清めの塩だ――たぶん。


 在庫システムの交換表を一覧で表示させる。

 

『◯皮→革製品・水・脂(油)など。

 ◯肉→食品・調味料など

 ◯鉄→鉄製品』


 この肉→食品・調味料のジャンルをポチると、塩、塩っと念じる。塩と交換する妥当な在庫が表示され、その詳細がプルダウンした。


『◯ホーンラビット▼

  ◯食塩

  ◯岩塩

  ◯粗塩

 ――――――――』

 

 あった――これだ。

 あとは数量指定して一旦『在庫システム』を閉じて――ほんと便利だな、おいっ!

 

「レオ、しばらくここで待っていてくれないか?」

 

「なんで? 1人で待ってる方が心細いよ。一緒に行ってよ」

 

 カッコ悪いんだが……。

「いや……ヒジョーに危険だぞ?」

 

「さっきのでわかってるよ、距離は取るからさ」

 

 泣きたい俺氏。


 ぎこちなく動き出した俺と平然と着いてくるレオ。玄関から入ると、薄暗い灯りに浮かび上がる長い廊下とその奥にある襖みたいな扉。

 

「あの扉の奥に6層への出入り口がある」


 レオが指差す先にフランス人形が立っていた。立っているよな?


「レオ……人形……いるよな?」


 俺だけ変なのが見えているわけじゃないよね?


「何が?」

「いるよね? 変な人形いるよね?!」


 どこに? と見返すレオ。

 はんあ〜っと口が開きひざが笑い出す。いるはずのない物がそこにいるかと思うと、恐怖が競り上がってくる。

 そうこうしているうちに、人形はカタカタとこちらに近寄ってきたんですけど?!


 そしてゆっくりとガラス細工の瞳をこちらに向けた。

 

『ママ……寂しかったぁ……。遊んで』

 エコーの効きまくった声で話しかけてくる。


「ママじゃないっ、ママじゃないって!」

 俺は涙目でイヤイヤと首をふると、


『そんなの嫌っ、いやぁぁぁぁ――ッ』

 耳元まで口が裂けて襲いかかって来た。


「きゃぁぁぁ――っ、在庫システムぅ――」


 表示されたのは岩塩……50キロ。


「ぽ、ポチっとなぁ!」


 俺の胸元から巨大な岩塩が飛び出し『宿屋』の廊下ごと吹き飛ばした。

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