第55話 リビングアーマーは錯乱する

『宿屋』と書かれた日本家屋の旅籠みたいな建物が見えてきた。

 安全地帯セーフティーゾーンかと思いきや

「逆だよ。ここ、妖怪系の魔物が出る」


 迷宮ダンジョン地図を確認していたレオが、嫌そうに顔をあげた。


「んじゃパスってことで」

「この『宿屋』の中に第6層の出入り口がある」

「ここに入ってくる時はどうした?」

「教会が販売する聖水と妖術避けの免妖符めんようふがあったから……」


「聖水と免妖符めんようふ?」

「教会で販売してるの。私は持ってないからどうにかするしかない」


「そっか……」


 正直、俺は幽霊とかダメな人だ。

 ホラーとか問題外で、子供のころは妖怪の話でおねしょを漏らした事もある。

 人智を超えた存在とか無理でしょ?

 呪いとか怖すぎるでしょ?


「なぁレオ。他に出口はないのか?」

「無いよ。あったにしても私は知らない」

「どーしてもココを通らなくちゃダメ?」

「他に方法があるんなら教えてよ。あ……ごめん」

 ちょっと言い過ぎたね、とレオが謝ってくる。


 構わねーよと、手をヒラヒラさせて、在庫システムで変換出来ないか探ってみる。

 回復水も出来たわけだし――と言うわけで『在庫システム』オープン!


『お探しのジャンルがありません。

 皮→革製品・水・脂(油)など。

 肉→食品・調味料など

 鉄→鉄製品

 と変換可能ですが何と何を交換しますか?』


「あかんか……」

「何言ってんだよ? 妖怪って常態異常を引き起こすだけだよ」


「死ぬとかないのか?」

「死なないけど変な声が聞こえたりとか」


 何それ? スっごく怖いんですけど。


「し、しぬ、死ぬるんじゃないなら、行くしかねぇよな?」

「ビビってんの?」

「ば、ばか、馬鹿言うなってんだ。ビビっちゃいねぇよ」

  

「妖怪が出たら耳と目を塞げば少しはマシらしいからさ」

 

 そう言ってレオはスタスタ『宿屋』に入って行く。

 か弱い少女だけで行かすわけにも行かないから、俺はおっかなびっくり後からついて行った。


『……誰?』

 

「レオ、今なんか言ったか?」

「? 何にも?」

 

『迎えに来てくれたんだ……』


 耳元で誰かがささやくんですが!?

 

『一緒に行くって言ったよね……』


 言ってませんって、誰っすか?! それ?

 

 ぼやっと白い影が通り過ぎたかと思うと、目の前に逆さ吊りの女がぶら下がってた。


『連れて行けぇ――っ』


「ひぃぃぃぃぃ――っ」


 もはやパニックだった。

弾丸バレットブレイクショットォォォ!」

 頭の中で思いつく限りの必殺ブローを叩き込んだ。


『んがッ、んごッ、ふべらッ』


 逆さ吊りの女は漆黒の魔石へと変わり、空間収容イベントリに消えて行った。

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