第54話 妖怪屋敷へようこそ

「ちゃんと向かい合おうと思ってくれたなら嬉しい」

 そう言うとレオはうん、とうなずき不器用に微笑んだ。

 これでレオの中の俺は悪霊騎士リビングアーマーと言う種族から、ショーカンという個人になる。

 それが少し嬉しくて俺も微笑み返していた。

 

――――まるで擬態だ。

 

 危険地帯ホットスポットから出た俺たちは、安全地帯セーフティーゾーンで一泊した後、第7層の出口付近まで移動していた。

 

 第7層は人間の町を擬態している。

 恐らくはここで倒れた冒険者たちの脳から記憶を抜き取るかどうかして、それを反映させているのだろうが道を進むごとに人家が現れてそこから魔物が飛び出してくるって寸法だ。


「レオッその先になんかいる」

「了解っ」


 レオは腰からぶら下げた麻袋に手を突っ込むと、投石器に瓦片をセットし流れるような動作でビュンと投擲とうてきした。

 腰の麻袋は元から持っていた物を、空間収容イベントリ巾着袋きんちゃくぶくろに交換した物だ。弾代わりの瓦片をストックしてある。


「フゴッ」


 ブタの鳴き声に似た声か上がると、軽トラくらいあるボアが飛び出してくる。赤い目を光らせてこちらに突進してくるが、全く問題ない。空間収容イベントリからミノタウルスの盾を取り出し受け止める。


「どっせぃ〜ッ」


 普通なら交通事故だ。

 時速60キロは出てるんじゃないか? と思うボアの突進をミノタウルスの盾は軽々と受け止めた。

 ドシンッと衝撃が走るが、レベルアップした俺にはもはやダンプでも突っ込んでこない限り、当たり負けすることはないだろう。


「レオッ、今だ」

「了解っ」


 レオにも新兵器を渡してある。

 オーガのメイスをこれまた空間収容イベントリで等価交換した2メートルほどの槍だ。

 これ以上長くなると重くて扱いにくいし、2メートルもあれば突撃しても魔物の武器は当たらない――かも知れない、と思って交換した。


 俺の声に弾かれるように腰を据えて構えると、体全体をバネのように弾かせてボアの顎下を突き刺す。


「ピゲェ……」


 魔物は青い血を吹き出しながら素材へと変わり、空間収容イベントリへ収容された。

 安全地帯セーフティーゾーンで武器の錬成と、ちょっとした訓練を経た俺たちは順調だった


「やったなレオ、これで三匹目だ」

「へへんっ、まぁこんなもんかな? ショーカンのおかげだよ」

「謙遜すんなって」


 互いに軽口を叩きながらしばらく行くと『宿屋』と書かれた日本家屋の旅籠みたいな建物が見えてきた。


「こんなところに安全地帯セーフティーゾーンが?」

「逆だよ。ここ、妖怪系の魔物が出る」


 迷宮ダンジョン地図を確認していたレオが、嫌そうに顔をあげた。

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