第53話 レベルアップするリビングアーマー


 オーガとの戦いを終えて、ショーカンが血を洗い流していたとき。

『レベルが上がりました』

 と謎のアナウンスが魔法絆から流れて来た。


――ショーカン目線です。


 頭から洗浄水を被り毛穴の一つ一つから、血やら脂やら汚れを洗い流していた時。

 

『レベルが上がりました』

 と例のアナウンスが流れた。 


「レオ……俺、どうやらレベルが上がったみたいだ」

 そう報告すると


「良かったじゃん」と顔を逸らす。


 顔色は見えないが、どうやら喜んでくれているらしい。


 それではステータスオープン! じゃなかった空間収容イベントリオープン!


『◯右腕

 ◯左腕

 ◯右足

 ◯左足

 ――――――――』


 おお、だいぶ復活してきたな。残りは四肢くらいだ。

 ここは右腕からだろう――両足は不便してるわけじゃないし。


「ポチッとな!」


 右肩あたりが盛り上がって来た気がして、そのあとズズッと押し出されて行く気がする。寝巻きを着るときに指先が引っかかって無理に押し込んでいる感じ?


「ぬぬ……?!」


 体中が熱を持っている。

 手袋に無理に指を突っ込む感じで、モリモリと押し込んで行く感覚が治ると、リビングアーマーの手甲の圧力を感じた。

 どうやら『触感』が戻って来たらしい。


「レオ、右腕が戻ったぞ」

「そう? 良かったね」


 なんだよ、えらい素っ気ないな。

 まぁ健常者だった俺が、障害者の方の気持ちとか感覚がわからなかったのと一緒なんだろう。

 そう思えばそう言う事に無関心すぎたかも知れない、とちょっと反省する。


 その気持ちが伝わったのかレオがバツの悪い顔をしている。


「ショーカン、おめでと。やっと――らしくなって来たじゃん」


 とまた顔を逸らす。

 目の前にある不自由が、ひょっとしたら自分にも降りかかってくるかも知れない未来だとすれば。

 目を逸らしたくなるし、かける言葉も思いつかないのだろう。

 この死と隣り合わせの世界ならば尚更なおさらだ。


「……気にしなくて良いぞ。そんな顔すんなって」

「ごめん、ちょっと軽く考えてたかも」

「何をだよ?」

「ショーカンがショーカンってこと。死霊騎士リビングアーマーって一括りで考えてた。人じゃないとか好き嫌いじゃなくて、守ってくれる変わった死霊騎士リビングアーマーって――利用してたみたいで、ごめん」


 とまた目を逸らす。


「気にすんな。それで良いんだよ――けどな、ちゃんと向かい合おうと思ってくれたなら嬉しい」

 そう言うとレオはうん、とうなずき不器用に微笑んだ。

 

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